本研究は、緑内障濾過手術後の創傷治癒過程におけるMCP-1とその受容体であるCCR2の分子レベルでの役割を明らかにし、線維化抑制につながる新しい理解を見出すことを目的とした。前年度までに、緑内障濾過手術のリスクファクターであるMCP-1が炎症細胞の浸潤や活性化に直接関与していることの証明として、2光子顕微鏡による生体眼イメージングでMCP-1存在下において結膜下組織中の炎症細胞(LysM陽性細胞)が活発化することを確認した。さらに、その細胞の活性化がROCK阻害薬であるリパスジルで抑制されることを確認した。本年度はこのデータを裏付けるためのMCP-1負荷下で遊走活性をもつ細胞の系譜解析として、シングルセルRNAシーケンス解析を行った。その結果、contorol、MCP-1負荷、手術モデルにおいて、controlとMCP-1負荷では存在する細胞集団に差異がないこと、手術モデルでは独自のクラスターが存在し、マクロファージや線維芽細胞が優位であることが明らかとなった。さらに生体眼イメージングで使用したマウスでGFPラベルしてあるLysM陽性細胞はマクロファージ優位であることも示唆された。線維芽細胞を用いた細胞生物学的検証では緑内障濾過手術の効果が得づらい血管新生緑内障の房水内で著明に上昇しているVEGFで刺激した線維芽細胞の上清でMCP-1が濃度依存的に上昇していることを確認した。以上の結果より、結膜創部においてマクロファージが関与している可能性、またMCP-1がマクロファージの活性化に関与し、それがリパスジルで抑制される可能性が示唆された。この知見をもとに線維化進展のメカニズムの解明を進めることで、緑内障術後に生じる線維化抑制の新しい理解につながる。
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