研究課題/領域番号 |
21K16913
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
高橋 周子 北海道大学, 医学研究院, 客員研究員 (00829434)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 羊膜由来間葉系幹細胞 / 透析足潰瘍 / α-Klotho / 創傷治癒 |
研究実績の概要 |
我が国における透析患者の増加は著しく、先進国の中で最も有病率が多いとされる。高齢化社会に伴い、透析患者の数は今後も増え続けると考えられており、透析施設の圧迫や医療経済の逼迫が懸念される。形成外科領域においても、透析患者に合併する重症下肢虚血やカルシフィラキシスなどの慢性創傷を治療する機会は増えているが、これらの創傷は重症化しやすく、かつ治療抵抗性で、長期の入院や外来通院、複数回の外科的治療を要することが多い。その背景には、持続する全身的・局所的な慢性炎症、全身血管・軟部組織石灰化、動脈硬化、皮膚血流低下、低栄養、合併症の存在などといった様々な病態が存在し、これらが複合的に作用することで創傷治癒遅延を引き起こすと考えられている。時には大切断を余儀なくされる場合もあり、患者のQOLを著しく損なう。透析患者の慢性創傷の治療は、解決すべき重要な問題の1つである。 当研究室では羊膜由来間葉系幹細胞(Amnion derived mesenchymal stem cell; AMSC)の局所投与による創傷治癒促進効果について継続的に研究を行っており、糖尿病マウスの創傷にAMSCの培養上清から作製したゲル(AMSCゲル)を外用することで、AMSCの抗炎症作用・血管新生作用によって創傷治癒が促進されることを証明した。今回我々はAMSCを透析患者の難治性創傷に応用することを考えた。透析患者の全身血管・軟部組織石灰化と類似した症状を呈するα-Klotho遺伝子ノックアウトマウス(Klothoマウス)を用いた創傷モデルを作製し、AMSCゲルの外用によってその創傷治癒にどのような影響が及ぶのかについて、詳細に検証を行うことを本研究の目的とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はKlothoマウスの試験飼育と動物モデルの作成を行った。老化抑制遺伝子であるα-Klotho遺伝子が欠損すると、マウスは早老化・機能不全を示し、ストレスにも非常に弱く、その多くが8-9週齢で死亡するとされる。今回の試験飼育では低体温予防と給餌・給水方法の工夫を行い、結果的に8週齢未満で死亡した個体は認めなかったほか、18週まで生存した個体も確認され、本実験に向けて具体的な飼育方法を確立した。 動物モデルとして、マウスの背部左右に全層の皮膚欠損創を作成する皮膚潰瘍モデルを採用した。野生型マウスにはC57BL/6Jを用い、野生型マウス・Klothoマウスの両者でモデルを作成し、観察を行った。潰瘍部は経時的に写真撮影を行い、上皮化までの変化と日数を記録した。画像解析ソフトImage Jを用いて潰瘍面積縮小割合の算出を行った。 以上のことから、当初の予定通りKlothoマウスの試験飼育と動物モデルの作成を行うことができたため、進捗としてはおおむね順調であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
潰瘍部にAMSCの生理活性物質が含まれる培養上清を抽出したゲル(AMSCゲル)、もしくは標準培地であるalpha modified eagle minimum essential medium (α-MEM)から作成したゲル(コントロールゲル)を外用する。Group A: 野生型マウス-コントロールゲル、Group-B: 野生型マウス-AMSCゲル、Group-C: Klothoマウス-コントロールゲル、Group-D: Klothoマウス-AMSCゲルの4群に分けて観察し、上皮化までの日数の比較と潰瘍面積縮小割合の算出を行うとともに、潰瘍部の免疫組織学的評価とリアルタイムPCRによる遺伝子発現を確認する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
Klothoマウスは他機関より都度購入して使用するが、1匹5万円以上と非常に高額である。今年度は主にKlothoマウスの試験飼育と動物モデルの作成の予備実験に留めているため、Klothoマウスの購入数がまだ少なく使用額が少額となっているものの、次年度では本実験に入るため、ある程度まとまった数のKlothoマウスが必要である。ストレスに弱く実験途中での死亡個体が出ることも予想されるため、予備を含めると大部分をKlothoマウスの購入費として使用する予定である。
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