我が国における透析患者の増加は著しく、先進国の中で最も有病率が多いとされる。高齢化社会に伴い、透析患者の数は今後も増え続けると考えられており、透析施設の圧迫や医療経済の逼迫が懸念される。形成外科領域においても、透析患者に合併する重症下肢虚血やカルシフィラキシスなどの慢性創傷を治療する機会は増えているが、これらの創傷は重症化しやすく、かつ治療抵抗性で、長期の入院や外来通院、複数回の外科的治療を要することが多い。その背景には、持続する全身的・局所的な慢性炎症、全身血管・軟部組織石灰化、動脈硬化、皮膚血流低下、低栄養、合併症の存在などといった様々な病態が存在し、これらが複合的に作用することで創傷治癒遅延を引き起こすと考えられている。時には大切断を余儀なくされる場合もあり、患者のQOLを著しく損なう。透析患者の慢性創傷の治療は、解決すべき重要な問題の1つである。 当研究室では羊膜由来間葉系幹細胞(Amnion derived mesenchymal stem cell; AMSC)の局所投与による創傷治癒促進効果について継続的に研究を行っており、AMSCの抗炎症作用・血管新生作用・線維化調整作用について明らかにしてきた。本研究では透析患者の全身血管・軟部組織石灰化と類似した症状を呈するα-Klotho遺伝子ノックアウトマウス(Klothoマウス)を用いて創傷モデルを作製し、AMSCの局所投与によって創傷治癒にどのような影響が及ぶのかについて検証することを目的とする。 Klothoマウスの背部に全層皮膚欠損創を作成し、AMSCをゲル化させることで潰瘍部に局所投与を行ったところ、コントロール群に比してAMSCが創傷治癒を促進することが明らかになった。この機序を明らかにするため、潰瘍組織を採取して組織学的検討およびリアルタイムPCRによるmRNA発現を検証した。
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