申請者は骨芽細胞が分泌する基質小胞により骨基質の石灰化が起こるだけでなく、骨細胞も積極的に骨基質石灰化の調整を行っている可能性を明らかにするために、主に動物モデルを用いたin vivo解析を中心に行った。申請者は野生型および高Pi・高Ca血症を示すkl/klマウスを用いて、通常食および低リン食を給餌すると、通常食群では骨梁中に未石灰化骨基質が広範囲にわたって広がり、その中には石灰化を受けた骨細胞が埋め込まれていた。また、そのような骨細胞は石灰化抑制に関与するDMP-1強陽性を呈した。さらに、透過型電子顕微鏡にて詳細に観察すると、骨芽細胞直下に基質小胞は観察されるものの、石灰化球はほとんど認められず、骨小腔や骨細管の壁が石灰化を受けているにも関わらず、その周囲の骨基質はほとんど石灰化されず、多数の基質小胞や小さな石灰化球のみが観察された。一方、低リン食群では骨基質石灰化は改善し、骨細胞からのDMP-1分泌も野生型と同程度となった。また、糖尿病モデルであるSDT fattyラットにおいて、骨細胞が産生するDMP-1だけでなくosteocalcin、コンドロイチン4硫酸も骨小腔において強い陽性反応が認められた。さらにSDT fattyラットの骨組織を詳細に観察すると、石灰化した骨基質の周囲に厚い未石灰化領域が観察され、その周囲には多数の血管が局在しており、骨特異的血管により骨芽細胞が活性化し、骨基質合成が促進されたのにも関わらず、骨細胞側からの石灰化調節が阻害され、厚い未石灰化領域が残存した可能性が示唆された。以上より、骨細胞ネットワークは骨細管系のカルシウム輸送および骨基質石灰化に積極的に関与し、その調節を行っている可能性が示唆された。
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