研究課題/領域番号 |
21K16936
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
笹 清人 昭和大学, 歯学部, 助教 (50823069)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ラクチル化 / 骨芽細胞分化 / 脂肪細胞分化 |
研究実績の概要 |
ヒストンの修飾は、アセチル化やメチル化、ユビキチン化など様々な化学修飾により染色体の高次構造の変化や転写制御、細胞運命の維持などを制御するとても重要な役割を担っており、DNA修飾と並んで「エピジェネティクス制御」の主体となっている。近年、ヒストンの新規修飾として乳酸による「ラクチル化」が発見され世界的に注目を集めている。しかしながら、血球系細胞や癌細胞でヒストンラクチル化の研究が進んでいるものの、骨組織においての研究は現在、存在しない。 我々は、乳酸の輸送体であるモノカルボン酸(乳酸、ピルビン酸、ケトン体等)を細胞内外に輸送する担体、モノカルボン酸トランスポーター(monocarboxylate transporter: MCT)の細胞分化に注目し、研究を行ってきた。現在までに間葉系幹細胞から骨芽細胞および脂肪細胞への分化をMCT1による乳酸の輸送が制御するというMCTの新しい機能を見出した。そこで本研究では、乳酸によるヒストンのラクチル化が間葉系幹細胞の分化にどのような影響を及ぼすかを明らかにすることを目的としている。そのため、①間葉系幹細胞の分化とヒストンラクチル化の相関、②ヒストンラクチル化部位の同定、③ヒストンラクチル化による間葉系幹細胞分化の振り分け機構の解明、④疾患モデルマウスにおけるラクチル化の様式という課題を遂行する。 本研究の成果は、乳酸のラクチル化による新たな分化機序の解明に繋がり、新たな骨代謝疾患の治療法の開発に大きく寄与する可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
骨芽細胞分化におけるヒストンラクチル化の影響:C2C12細胞に骨芽細胞分化誘導するためBMP2を添加し、また乳酸産生を制御するためグルコース濃度を調整し解析した。乳酸の産生は、グルコースの濃度依存的に増加し、骨芽細胞分化マーカー遺伝子(Tnap, Osx, Runx2)およびヒストンラクチル化もグルコース濃度依存的に増加した。また、乳酸産生を抑制するため乳酸脱水素酵素(LDH)AのsiRNAを導入したC2C12細胞は、骨芽細胞分化を抑制した。また、LDH A阻害剤(Oxamate)を添加しても同様な結果が得られた。 脂肪細胞分化におけるヒストンラクチル化の影響:マウス脂肪前駆細胞株3T3-L1細胞を用いて、脂肪細胞へ分化を誘導しヒストンラクチル化の解析を行った。乳酸添加するとヒストンラクチル化は増加し、また脂肪細胞分化マーカー遺伝子が増加した。乳酸を輸送する担体であるモノカルボン酸トランスポーター(MCT)1 siRNAを導入した細胞は、ヒストンラクチル化が増加した。 これらの結果から、骨芽細胞および脂肪細胞分化に細胞による乳酸産生が関与していることおよびヒストンラクチル化による遺伝的制御が関与する可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
方針として、ヒストンラクチル化の発現をコントロールするためグルコース濃度を振り解析を行う方針に変換した。今後行う予定である②間葉系幹細胞の骨芽細胞、脂肪細胞の分化におけるヒストンのラクチル化部位の同定やヒストンのラクチル化による間葉系幹細胞分化の振り分け機構の解明(1.ヒストンラクチル化により制御される転写因子の同定、2.乳酸による転写因子制御の解明、3.ラクチル化による転写因子制御と分化の確認する)といった項目でも同様にグルコースの濃度を振りながら進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に使用すべき委託研究(LC MS/MS,Chip-seq)を行うまで研究が進まなかったために次年度に行う予定となった。今後、LC MS/MSやChip-seqを用いて骨芽細胞および脂肪細胞分化時におけるヒストン修飾の変化を解析する。特段、研究計画に変更はない。
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