口腔顔面領域に入力する侵害情報は、痛みの弁別系として知られる外側脊髄視床路を介して体性感覚を担う一次体性感覚野と、前脊髄視床路を介して島皮質を含む情動の形成に関わる辺縁皮質に伝達される。これらの中継核である結合腕傍核は、弁別系経路である視床の腹側基底核群と不快な情動形成に関与する扁桃体への投射が報告されている。一方、島皮質は腕傍核へ投射することが解剖学的に示されており、腕傍核において侵害情報を修飾すると推定されるが、腕傍核において弁別系と情動系どちらを増強するのかは不明である。そこで本研究では、島皮質からの下行性投射が視床または扁桃体へ投射する腕傍核ニューロンのどちらを増強させるのかを明らかにすることを目的とした。 前年度には腕傍核の腹外側部口腔顔面領域における侵害情報入力が末梢神経を介して入力する三叉神経脊髄路核尾側亜核からの応答を光遺伝学的手法およびホールセルパッチクランプ法で記録を行った。これを踏まえ、最終年度は島皮質にアデノ随伴ウイルスをベクターとしてチャネルロドプシン2を発現させ、腕傍核を含む急性脳スライス標本を作製した。腕傍核腹外側部のニューロンから記録し、島皮質ニューロンに光刺激することで興奮性シナプス後電流を記録した。すなわち、島皮質からの下行性投射は腕傍核において侵害情報伝達の修飾していることが示唆された。 扁桃体と視床に逆行性トレーサーを注入し、腕傍核を含むスライス標本を観察すると扁桃体へ投射するニューロンを外側腕傍核で確認した。視床においては後内側腹側核へは投射する細胞を確認せず、髄板内核へ投射する細胞を確認した。今回これらのニューロンから電気生理学的に島皮質からの応答の記録には至らなかったが、島皮質からの下行性投射ニューロンが口腔顔面領域の痛み情報処理において主に情動系の経路を賦活することで痛み情報伝達に関与することが示唆された。
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