研究課題
頭頸部扁平上皮癌に対するCetuximab (Cmab) の有用な臨床効果が知られているが (Vermorken et al. N Engl J Med 2008)、それを裏付ける基礎医学研究にはいまだ不明点が多い。標的となる上皮成長因子受容体 (EGFR) の機能やその生物学的動態に対する基礎研究は多数行われているものの、EGFRの下流経路のほかADCC活性など、細胞への多彩な影響をもたらすことから、細胞代謝動態、免疫機構への影響については解明すべき課題は多い。臨床現場においても、Cmabは再発・転移頭頸部扁平上皮癌における維持療法として用いられることも少なくなく、Cmabの長期作用によるがん細胞の代謝動態に与える影響について、より深い生物学的理解が必要である。申請者らは、Cmab長期処理は、舌扁平上皮癌細胞株における早期のEGFR経路の顕著な阻害は引き起こさないが、持続的な細胞遊走能の低下による、細胞接触ストレスを介したAktおよびmTOR活性の低減を引き起こし、その結果、細胞内におけるp27Kip1の増加とオートファジーの亢進により、G1期での細胞周期の停止と、細胞増殖抑制を生じることを報告した (Okuyama et al. Sci Rep 2021)。そして、Cmabの主たる作用として細胞遊走能の低減が確認されたことを受け、本研究の次のステップとして、細胞骨格を経由する細胞内タンパク輸送動体の変化に着目した。一方、細胞密度に関連した細胞ストレスセンサーとして、Hippo/YAP pathwayが働くことが分かっている。細胞密度の増大と細胞内におけるオートファジーの発現は、このYAPに何らかの変化をもたらす可能性があることと推察され、YAPの発現とその動態解析を研究計画に含めることとし、頭頸部扁平上皮癌細胞株におけるYAP pathwayの発現を確認した。
3: やや遅れている
新型コロナウイルス感染症の世界的流行等の影響を受け、物流、特にCetuximab自体の入手に時間がかかったこと、大学における研究活動も上記蔓延により制限があり、研究への着手に時間がかかったことが主たる要因であると考えられる。また、新たにHippo/YAP pathwayの動態解析を行うにあたり、研究計画を練り直す必要があった。
YAPは不活性状態では細胞増殖へ、またリン酸化されて細胞増殖抑制へ細胞動態をシフトさせる。細胞密度の増大と細胞内におけるオートファジーの発現は、このYAP pathwayに何らかの変化をもたらす可能性があることと推察され、細胞骨格形成やそれを介したタンパク輸送変化との関連の解明が望まれる。現在は物流や研究環境も回復傾向にあり、今後の研究活動の加速化が期待されるものと予想される。一方で、利用する予定であるpCMV-YAP5SA過剰発現細胞株はすでに確立されており、実験への下準備も整っており、現時点での実験計画の遅れは容易に取り戻せるものと予想される。
研究に関わる事柄に使用した金額のうち、少額次年度繰り越しとなった。これには新型コロナウイルス感染症蔓延防止に伴う研究活動の休止や、各種学会等のオンライン化により、旅費の計上が不要になったことなどが原因として考えられる。これは次年度への研究費用(試料・資材・器機の購入)、学会発表にかかる参加費・旅費、論文投稿にかかる諸経費(英文校正、投稿料、別刷り等)に繰り越し、充てる予定である。
長崎大学病院臨床研究センター内 臨床研究に関する情報公開(オプトアウト) : http://www.mh.nagasaki-u.ac.jp/research/rinsho/patients/open_oraloncol.htmlUniversity of Michigan Lei Lab ホームページ内 : https://media.dent.umich.edu/labs/lei/
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件)
BMC Oral Health
巻: 22 ページ: 20
10.1186/s12903-022-02056-x
Journal of Oral and Maxillofacial Surgery, Medicine, and Pathology
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
Journal of Dental Sciences
巻: 16 ページ: 885~890
10.1016/j.jds.2020.12.007
Global Health & Medicine
巻: 3 ページ: 157~162
10.35772/ghm.2020.01084
Medicine
巻: 100 ページ: e27560~e27560
10.1097/MD.0000000000027560
Diagnostics
巻: 11 ページ: 2124~2124
10.3390/diagnostics11112124
巻: 33 ページ: 211~214
10.1016/j.ajoms.2020.08.014
日本口腔外科学会雑誌
巻: 67 ページ: 353~358