研究課題/領域番号 |
21K16945
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松宮 由香 大阪大学, 歯学部附属病院, 助教 (80817023)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 唾液腺 / 顎下腺 / 多形腺腫 / 文化機序 |
研究実績の概要 |
多形腺腫は、唾液腺を原発とする良性唾液腺腫瘍である。組織学的に多形腺腫は、腺管を形成する腺管上皮と、その周囲に広がる筋上皮細胞(腫瘍性筋上皮細 胞)からなる上皮系組織と、多様な間葉組織から構成され極めて多彩な組織像が、同一腫瘍内に見られる。間葉組織には、粘液腫様組織、硝子様組織、軟骨様組 織、骨様組織、脂肪様組織がみられ、これらは腫瘍性筋上皮細胞から分化すると考えられている。しかしながら、腫瘍性筋上皮細胞がなぜ、どのような機序で、 多彩な分化を示すのかは不明である。そこで、本研究では、形態に基づく多彩な分化領域の網羅的遺伝子解析を行い、多分化機序の解明を進め、多形腺腫における多彩な組織分化メカニズムを解明することを目的とした。 2022年度は、多形腺腫と診断された手術検体1例を回収し凍結保存した。これまでの検体を凍結上で標本とし、形態学的に異なる部位ごとのRNA抽出を進めた。さらに、これから回収される検体も含め、網羅的解析を進める予定である。社会的情勢の影響もあり、手術検体が集まりにくい状況であったことからも、今後の展開を見据え、検体以外からも研究を進めるべく、マウス顎下腺の萎縮モデルの作製とこれによる病態解明をめざす。唾液腺の腫瘍性病変の存在や他の要因による炎症からも正常唾液腺は萎縮することが知られている。 マウス顎下腺を用いて、唾液腺萎縮モデルを作製し、腫瘍本体と腫瘍の発生母地となる唾液腺の病態解析を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在、多形腺腫の検体を集め、解析を順次行なっている。しかし、新型コロナ感染の影響もあり、臨床検体の数が十分に得られなかった。制限解除を受け、患者数自体が増える傾向にあるため、今後、検体数は増大するものと思われる。この期間を利用し、検体からのRNA抽出の精度を高め、小さな検体からの形態学的な評価と、RNA解析を行えるようになった。また、検体での研究を代替できるよう、マウスを用いた腫瘍による唾液腺の影響を視野に内容を工夫し研究を進めている。マウス唾液腺の結紮モデルを作製に着手し、成功した。マウス唾液腺結紮モデルは顎下腺の導管を2週間結紮し、解除後の状態を経時的に評価した。結紮解除時の唾液腺腺房の萎縮と解除2週間後の回復を確認した。 個人的には子育て、臨床、教育と研究を両立させることは困難な面もあるが、効率化を進めたい。
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今後の研究の推進方策 |
現在、待機している手術の中にも大きな多形腺腫症例があり、すでに検体採取の許可は得ている。これを含めたこれまでの検体をもとに、すでに行っている形態学的に異なる部位からのRNA抽出を進め、解析を予定している。この結果に基づき、形態学的差異と遺伝子発現の差異について評価し、腫瘍の発生、分化、増大、進行についても症例ごとの性質と照合し解析を進めたい。これまでの検体の不作に対する代替的な研究アプローチとして、マウス唾液腺を用いて、萎縮モデルを作製したが、腫瘍だけでなく、炎症性疾患などとも共通する唾液腺本体の変化についても研究を進めたいと考える。このモデルについては、さらに多形腺腫による影響を想定し、RNA解析により得られた因子による影響の他に、発生、分化に関与する因子の影響も検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
これまで、貴重な検体を無駄にしないようRNAの抽出技術など解析方法の安定化を行いつつ、検体材料以外のマウス唾液腺を用いた他方向から唾液腺腫瘍へのアプローチをおこなってきた。本年度は最終年度として、この両方向からのアプローチを集約すべく、蓄積した貴重な検体からの解析を行うにあたり、これまでよりも多くの助成金が必要になり、繰越分を用いて使用する計画である。
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