唾液腺多形腺腫は、唾液腺に最も多い腫瘍であり、悪性化の報告もある。組織学的に多様であり、腺管上皮と、その周囲に広がる筋上皮細胞(腫瘍性筋上皮細 胞)からなる上皮系組織と、多様な間葉組織から構成され、極めて多彩な組織像が、同一腫瘍内に見られる。 最終年度はさまざまな間葉組織を形成している唾液腺多形腺腫症例6例と正常唾液腺4例のFFPから抽出したRNAを用いて、網羅的遺伝子解析を行なった。多形腺腫症例は多形腺腫の多様な組織学的特徴を反映するために、部位は耳下腺、顎下腺、小唾液腺由来のものとし、間葉組織は粘液腫様組織、硝子様組織、軟骨様組織を形成している症例や筋上皮を主体とする症例を含めた。正常唾液腺組織は顎下腺由来を用いた。トロンボスポンジン (THBS) 遺伝子ファミリーは、組織損傷後の炎症とリモデリングを制御するとされ、血管新生を抑制する作用 (VEGF、MMP、bFGFの阻害作用) を有することが報告されている。また、THBS-1 と THBS-2 は腫瘍微小環境の間質細胞によって頻繁に発現され、腫瘍発生や腫瘍免疫に関連していることが報告されている。唾液腺多形腺腫と正常唾液腺組織における網羅的遺伝子発現解析を行ったところ、多形腺腫症例において、THBS1(5.7倍)、THBS2(4.8倍)、TGFb3(2倍)の高発現が確認された。免疫組織学的染色にて、これらのタンパク発現を確認した。 次に、筋上皮細胞株の樹立を目標に、まずは、器官培養から開始した。胎生14.5日にて胎児顎下腺を摘出し、器官培養を4日間行ったところ、腺房部end budの安定した発達を確認した。次に、胎生16.5日で顎下腺を摘出し、コラゲナーゼにて単細胞単位まで分離し培養を行った。培養開始5日後にオルガノイド様の細胞集塊が出現した。筋上皮細胞の標識マーカーによる単離を試みたが、困難であり、本研究では見送った。
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