Kruppel-like factor(KLF)5は上皮細胞の分化抑制に重要な転写因子である。上皮性悪性腫瘍では過剰に発現し、癌細胞を脱分化させることから癌進行における重要な因子であると考えられる。本研究では、癌の悪性形質獲得に関わるKLF5遺伝子の抑制的な発現制御機構に着目し、「①KLF5遺伝子の発現抑制機構」と、「②細胞分化とKLF5の発現制御との関係性」の2点を明らかにすることを目的とする。本研究では、①、②において以下の結果を得た。 ①KLF5の基本的発現に重要な最小必要領域(minimal essential region、MER)とその上流に存在するサイレンサー領域間はインタラクトしており、MER-サイレンサー間にはCREBが介在していたが、MERに結合することでKLF5発現に大きく寄与するSp3の介在は確認できなかった。また、MER上にはSp3の他にCREBも結合していた。②ヒトケラチノサイト由来細胞株HaCaTにhigh-Caもしくはlow-Ca培地を用いることでHaCaTの分化・脱分化誘導を行ったところ、内在性KLF5の発現は分化・脱分化誘導のいずれにおいても増加し、内在性CREBの発現も分化誘導により増加傾向を示した。また、低分化状態でのHaCaTにおいて、CREB knockout cloneでは内在性KLF5の発現は増加傾向を示したが、高分化状態ではKLF5の発現に有意な差は見られなかった。 以上の結果から、①MER-サイレンサー領域間に介在するCREBは、MER上のSp3以外のタンパク質(CREBなど)と優先的に複合体を形成する可能性が示唆された。②KLF5とその発現抑制に関わるCREBはCa誘導性ケラチノサイト分化の影響を受け、細胞内Ca濃度がそれらの発現制御に関与する可能性が示唆された。
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