本研究ではラットを用いた動物実験系において、高スクロース飼料を不断給餌することでう蝕を誘発し、う蝕由来歯髄炎モデルを作製し、さらに炎症が惹起された歯髄組織における免疫担当細胞(TLR2、PCNAおよびM1およびM2マクロファージ)の局在について検討するとともに、浅在性う蝕と深在性う蝕に罹患して歯髄炎を発症した歯に対して直接覆髄実験をおこない、その後の創傷治癒過程を詳細に解析することで、世界初のラット可逆性・不可逆性歯髄炎モデルの作製に成功したものである。 う蝕に罹患すると、そのう蝕が浅在性であっても歯髄組織においてTLR2やPCNAなどの発現が増強されることおよびM2マクロファージの発現が上昇することが明らかとなり、深在性や露髄を呈するようなう蝕の場合は、歯髄組織においてTLR2やPCNAの発現上昇とともに、M1型マクロファージの強い発現増強が認められた。 また、浅在性う蝕を対象としたMTAを用いた直接覆髄実験では、健全歯に比べるとやや不整な構造ではあるものの、露髄部直下に露髄部を完全に閉鎖するような第三象牙質の形成が認められたのに対し、深在性う蝕の場合には、硬組織の誘導は部分的に認められるものの、露髄部の閉鎖は認められず、歯髄の炎症も残存したままであった。さらに、健全歯を対象とした直接覆髄実験と比較すると、浅在性う蝕の歯髄創傷治癒過程においてM2型マクロファージの発現変化が顕著であり、M2マクロファージが炎症からの回復に寄与していることが明らかとなった。 以上の結果からわれわれは、浅在性う蝕由来の可逆性歯髄炎モデルおよび深在性う蝕由来の不可逆性歯髄炎モデルの作製に成功した。本モデルを用いることで、歯髄保存療法の適応が拡大し、歯髄炎の治療薬の開発へと発展していくことが期待される。
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