患者および術者からの審美性に対する要求の高まりから,歯冠色を有する間接修復物が選択される症例が増加している。脆性材料である審美歯冠修復物を長期間口腔内で機能させるためには,接着性を有するレジンセメントを介した支台歯との一体化が求められる。一方, 修復物を口腔内で試適した際に生じる唾液や血液といったタンパク質による,修復物内面や支台歯汚染は,レジンセメントとの接着性を低下させる可能性があり,汚染の除去法については様々な方法が提唱されている。しかし,修復物内面および支台歯双方に有効であるとともに簡便な術式は確立されていないのが現状である。そこで申請者は,表面自由エネルギーを指標として,界面科学的な観点からCAD/CAM用ハイブリッドレジン,セラミックスおよび支台歯への唾液汚染がレジンセメントの接着性に及ぼす影響を解明し,簡便で効果的な術式の確立を目的として本研究を計画した。 今回の研究期間を通じて支台歯に対する唾液汚染の除去法に関する知見を得ることができた。支台歯はエナメル質あるいは象牙質のみならず支台築造用コンポジットレジンから成る症例が最も散見される。これら支台歯に対するレジンセメントの接着強さは,24時間および温熱負荷後のいずれにおいても唾液汚染によって有意に低下したが,処理材を使用することで接着性が回復した。また、歯質および支台築造用レジンの表面自由エネルギーは,唾液汚染によって低下するものの,表面処理によって有意に高くなった。SEM観察の結果から,唾液汚染後の機能性モノマー含有表面処理材あるいはリン酸処理により汚染物質は除去された像が観察されたものの,一部製品においては組成成分の一部が残留した像が観察された。 これらの研究成果については学術論文および学術大会にて発表するに至った。また、追加で得られた知見に関して国際雑誌に別途、投稿中である。
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