研究課題
本研究の目的は、微生物シングルセルゲノム解析による個別の全ゲノム解読から、歯周炎と健常者の同一菌種での遺伝子の違いを比較解析することで、歯周炎特異的な株レベルの細菌同定を行い、歯周疾患発症に影響する細菌を解明することである。これまでに、侵襲性歯周炎の全エクソー ム解析を行い原因候補遺伝子(NOD2)を同定したが、本遺伝子の変異は全ての患者に認められるわけではなく、歯周病の発症には遺伝要因だけでなく環境要因との統合的理解が必要である。当該年度は、歯周炎患者4名の重症部位と健常者2名の健常部位の計6サンプルのプラーク由来の口腔内細菌を次世代シークエンサーにて塩基配列を取得した。16S rRNA解析ではデータベースにHOMDとSILVAを使用し、種レベルまでの微生物系統を調べた。重度の歯周病に最も関与すると言われているred complexの3菌種(Porphyromonas gingivitis、Tannerella forsythis、Toreponema denticola)については、ほぼ歯周炎患者でしか検出されなかった。SAG(Single-cell Amplified Genome)基本解析では、各サンプル384SAGsを取得し、平均total Readsは177.5Mreads、平均total Lengthは26800MbPであった。また各サンプル384SAGsのうち、High Novelty(>50%)は平均31.3SAGs、Low Novelty(<=50%)は平均109.3SAGsであった。歯周炎患者と健常者計6名のSAGでユニークな細菌種は計152種類得られ、そのうち、歯周炎患者4人が共有し健常者にない細菌は3種類、歯周炎患者3人が共有し健常者にない細菌は8種類、歯周炎患者になく健常者のみが共有する細菌は10種類、また6名全員が共有する細菌は1種類であった。
4: 遅れている
当初は歯周炎患者由来のSAGと健常者由来のSAGで同一菌種の株レベルの違いを比較する予定であったが、red complexが健常者由来のサンプルではほとんど検出されなかった。原因としては、そもそも健常者ではred complexを始めとする歯周病源細菌の存在量が少なく、比較出来るほどの細菌DNAの取得が困難である可能性がある。またサンプリング手法が確立出来ていなかったため、サンプルDNAの品質が悪かったことも要因として考えられる。SAGのqualityは完全性や冗長性などからhigh-quality/medium-quality/low-quality/Comtaminatedなどの水準に区分されるが、今回の計6サンプルのうち、1サンプルのみ約半分のSAGsがhighもしくはmedium-qualityであり、残りの5サンプルはその多くがlow-qualityであった。そのため解析データ量を増やすため研究計画を変更し、サンプリング手法を見直した上で歯周炎患者に解析対象を絞って追加のサンプリングを行うこととした。またコロナ禍により本学のバイオリソースセンターによるバイオバンク事業が中断していたこと、さらに侵襲性歯周炎患者の来院患者数も年数名と少ない状況から、当初予定したヒトゲノムの解析と統合する研究デザインも変更し、歯周炎患者の微生物ゲノム解析に絞った計画とし倫理審査の修正を行なった。
今後はまずこれまで得られたドラフトゲノムの追加解析を行う。 qualityの高かったサンプルについては、同種由来ゲノムを推定し、同種のものは統合し、重複を除いたゲノム種の整理を行う。その上で再度qualityの評価を行い、系統解析やKEGG代謝解析を行う。また追加で歯周病患者の微生物ゲノムを口腔内プラークよりサンプリングし、シングルセルゲノム解析とショットガンメタゲノム解析を行い、歯周病の病態特徴的な細菌群の推定を行う。さらに推定した細菌ゲノムのcompletenessが高ければそこから機能を評価し、公共データベースのゲノム情報と比較解析を行う予定である。
本年度に追加のシングルセル解析を行う予定であったが、倫理審査員会への変更申請及び患者のリクルートが予定よりも時間を要し、次年度への延長申請を行なった。シングルセルゲノム解析を及びショットガンメタゲノム解析並びにバイオインフォマティクス解析が主な使用用途である。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (4件)
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