本研究の目的は、シングルセル解析による個別の全ゲノム解読から、歯周炎と健常者の同一菌種での遺伝子の違いを比較解析することで、歯周炎特異的な株レベルの細菌同定を行うことにより、歯周疾患発症に影響する細菌を解明することである。昨年度までに、歯周炎患者4名の重症部位と健常者2名の健常部位の計6サンプルのプラーク由来の口腔内細菌を次世代シークエンサーにて塩基配列を取得した。16S rRNA解析では重度の歯周病に最も関与すると言われているred complexの3菌種については、ほぼ歯周炎患者でしか検出されなかった。当初は歯周炎患者由来のSAGと健常者由来のSAGで同一菌種の株レベルの違いを比較する予定であったが、red complexが健常者由来のサンプルではほとんど検出されなかった。原因としてはそもそも健常者ではred complexを始めとする歯周病源細菌の存在量が少ない可能性と、サンプリング手法が未確立であったためDNAの品質が悪かったことも要因として考えられる。今回の計6サンプルのうち、1サンプルのみ約半分のSAGsがhighもしくはmedium-qualityであり、残りの5サンプルはその多くがlow-qualityであった。最終年度は、サンプリング方法を改善しより高品質なSAGsが多く得られるように歯周炎患者に絞り、追加で3名のサンプリング、シークエンスを実施したところ、前回よりも高品質なドラフトゲノムの取得に成功した。さらに同一患者に対して16S rRNA解析とメタゲノムショットガン解析を実施して、従来の細菌叢解析よりもより網羅的なデータの取得とMAG解析を行い、さらに同一株由来と考えられるSAGsを統合したccSAG、またSAGとMAGと統合したSAG・メタゲノム統合解析も実施した。期間内に最終解析まで至らなかったが、今後結果をまとめて論文として報告する予定である。
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