研究課題/領域番号 |
21K16991
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
阪下 裕美 大阪大学, 医学系研究科, 特任助教(常勤) (90779092)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | HMGB1ペプチド / 歯周組織再生 / 幹細胞 / 歯根膜 / PDGFRα+ |
研究実績の概要 |
他組織における研究で新規開発されたDNA結合タンパクhighly mobility group box 1 (HMGB1)ペプチドは血流を介して骨髄由来platelet derived growth factor receptor α発現(PDGFRα+)細胞を損傷部位に動員させることで組織再生が促進されることが示されています。これまでに歯周組織再生過程におけるHMGB1ペプチドの効果は報告されていませんが、同過程に残存歯槽骨骨髄や歯根膜に由来する間葉系細胞が重要な役割を担っていることから、HMGB1ペプチドにより歯周組織へPDGFRα+細胞が動員することにより歯周組織再生を誘導できる可能性があります。そこで本研究では、歯周組織再生過程におけるHMGB1ペプチド薬効を評価し、歯周組織再生療法への応用を検討します。また、PDGFRα+細胞や多分化能を有することが示されている歯根膜細胞の解析により歯周組織再生に関与する幹細胞の局在及び機能を解明し、歯周組織再生機序への理解を深め、新たな歯周組織再生療法開発に繋げることを目的としています。 本研究ではマウス上顎臼歯を絹糸で1週間結紮することでプラーク堆積による歯周組織の炎症、歯槽骨の吸収を誘導する「絹糸結紮歯周組織損傷モデル」を用いたHMGB1ペプチドの薬効評価実験を行い、生体内での作用を検討します。同モデルにおいて破壊された歯周組織のHMGB1ペプチド投与による再生増強効果をμCTによる歯槽骨再生の評価及び歯周組織の切片を用いた組織学的解析により検討します。また歯根膜細胞またはPDGFRα+細胞を蛍光タンパクにより標識可能な遺伝子組み換えマウスに歯周病を誘導し、歯周組織再生時の標識細胞の局在を組織学的に調べ、蛍光免疫染色やin situ hybridizationの併用により両細胞群の歯周組織再生への寄与を多方面から評価します。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画におけるA)生体内でのHMGB1ペプチドを介した歯周組織再生の評価およびB)歯周組織再生に関与する細胞の同定はいずれも順調に進展している。これまでに、若齢マウスの絹糸結紮歯周組織破壊誘導モデルにHMGB1ペプチドを投与し、μCTにおける歯槽骨再生の評価および切片作製による組織学的な評価を組み合わせることで同ペプチドの歯周組織再生増強効果を検討してきた。さらに、絹糸結紮一週間後に絹糸を除去すると歯周組織の自然治癒が認められる若齢マウスでの検討に加え、老齢マウスを用いた検討を行っている。すでに老齢マウスでは若齢マウスに比較して治癒が遅延することを明らかとしており、難治性の歯周病へのHMGB1ペプチドの効果を検討するためのモデルとして有効であることが示唆されれる。若齢マウスを用いた実験と同様の歯周組織再生評価解析を行う。以上より、計画通りにHMGB1ペプチドの歯周組織再生における薬効評価を実施し、現在も継続中である。また、歯周組織の再生に関与する細胞の同定のため、計画通り遺伝子組み換えマウスを導入済みである。Pdgfra-CreER;R26-LSL-tdTomatoマウスおよびPlap-1-GFP-CreERマウスをかけ合わせにより作出し、必要に応じてタモキシフェンを腹腔内投与することでそれぞれPDGFRα+細胞をtdtomato、PLAP-1+細胞をGFPで標識した。歯周組織再生に関与する幹細胞である可能性が高いと考えられるこれらの細胞の局在および動態を組織切片、蛍光免疫染色やin situ hybridizationを組み合わせることで評価を継続している。以上より、これまでの研究の進捗状況は概ね計画通りである。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究の進捗状況は概ね計画通りであり、今後も計画に沿って推進していく予定である。 生体内でのHMGB1ペプチドを介した歯周組織再生の評価において、若齢マウスでは絹糸除去後に短期間で歯周組織の自然治癒が認められることからHMGB1ペプチドの最大効果を発揮する最適な投与タイミングの検討が必要である。また老齢マウスにおいても治癒が長期化するためHMGB1ペプチドが最大効果を発揮する投与タイミングと期間の検討を継続する必要があると考える。 また、歯根膜細胞またはPDGFRα+細胞を蛍光タンパク標識により追跡可能なPdgfra-CreER;R26-LSL-tdTomatoマウスおよびPlap-1-GFP-CreERマウスに絹糸結紮による歯周組織破壊を誘導し、誘導前後および絹糸除去後の歯周組織再生過程における標識細胞の局在を組織学的に調べ、蛍光免疫染色やin situ hybridization を併用することで両細胞群の歯周組織再生への寄与を多方面から評価する予定である。また、当初の計画通り、大腿骨骨髄、歯槽骨そして歯根膜より細胞を単離し、フローサイトメトリーを用いて歯周病発症前後および歯槽骨再生時の各組織におけるPDGFRα+細胞群の変化を検討し、同細胞の歯周組織再生への寄与を明らかにする予定である。さらにPlap-1-CreER-GFPマウスを用いて歯根膜より細胞を単離し、フローサイトメトリーを用いた幹細胞マーカー発現の解析、分化誘導実験により幹細胞としての機能を検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の流行に起因して、物品の欠品による研究計画の一部見直しが必要であったため。次年度に同計画を実施することにより、当初計画した通りの研究実施が可能である。
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