研究課題/領域番号 |
21K16994
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
杉井 英樹 九州大学, 歯学研究院, 助教 (80802280)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | Decorin / 歯根膜幹細胞 / 骨芽細胞様分化 |
研究実績の概要 |
重度のう蝕、歯周炎、外傷等によって生じる歯周組織の欠損は、歯の喪失を引き起こす。そのため、歯周組織の治癒および再生を促す因子の同定が求められている。Decorinは、細胞外マトリックスの成分であるプロテオグリカンの一種で、コラーゲン線維形成、創傷治癒、骨形成等に重要な働きを持つ分子であることが報告されている。 私達は、Decorinが傷害を受けた歯周組織の治癒に及ぼす影響およびヒト歯根膜幹細胞の骨芽細胞様分化を誘導する分子機構について解析を行い、傷害を与えたラット歯周組織の傷害部位およびその周囲の骨および歯根膜組織において、傷害後5日で傷害を与えていないControl群と比較してDecorinの発現が有意に増加することを明らかにした。さらに、in vitroにて当研究室にて樹立した歯根膜幹細胞株(2-23細胞株)を用いて、炎症性サイトカインであるIL-1βおよびTNF-αにて刺激を行った2-23細胞株において、Decorin遺伝子発現が有意に上昇することを示し、炎症状態下にある歯周組織においてDecorinの発現は炎症初期で最も促進し、さらにDecorinがオートクライン、パラクライン的にヒト歯根膜幹細胞に作用している可能性が推察された。 次に、ヒト歯根膜幹細胞の骨芽細胞様分化を誘導する分子機構に関して、Decorin コーティングしたplateにて培養した2-23細胞株では、非コーティング群と比較してp-ERK1/2のタンパク発現が有意に上昇した一方で、p-Aktのタンパク発現は非コーティング群と比較して有意な差は認められなかった。本研究の結果から、Decorinがヒト歯根膜幹細胞の骨芽細胞様分化をAktではなくERK1/2のリン酸化を介して促進することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
私達は、傷害を与えたラット歯周組織の傷害部位およびその周囲の骨および歯根膜組織において、傷害後5日で傷害を与えていないControl群と比較してDecorinの発現が有意に増加することを明らかにした。さらに、in vitroにて2-23細胞株を用いて、炎症性サイトカインであるIL-1βおよびTNF-αにて刺激を行った2-23細胞株において、Decorin遺伝子発現が有意に上昇することを示し、炎症状態下にある歯周組織においてDecorinの発現は炎症初期で最も促進し、Decorinがオートクライン、パラクライン的にヒト歯根膜幹細胞に作用している可能性が推察された。したがって、Decorinは傷害を受けた歯周組織の治癒過程に重要な因子である可能性が示唆され、傷害後5日のサンプルをレーザーキャプチャーマイクロダイセクションすることで、より多くのDecorinと相互作用する因子を同定することができると推察される。 次に、ヒト歯根膜幹細胞の骨芽細胞様分化を誘導する分子機構に関して、Decorin コーティングしたplateにて培養した2-23細胞株では、非コーティング群と比較してp-ERK1/2のタンパク発現が有意に上昇した一方で、p-Aktのタンパク発現は非コーティング群と比較して有意な差は認められなかった。本研究の結果から、Decorinがヒト歯根膜幹細胞の骨芽細胞様分化をAktではなくERK1/2のリン酸化を介して促進することが示唆された。このように、ヒト歯根膜幹細胞の骨芽細胞様分化を誘導する細胞内シグナルが明らかとなったため、今後Decorinと相互作用する因子のスクリーニングの際に非常に有益となることが示唆される。
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今後の研究の推進方策 |
まず、Decorinと結合し、歯周組織再生を促進する因子のピックアップを行う。ラット歯周組織傷害モデルを用いて、Decorinを高発現する傷害後5日の組織切片中の、正常な歯根膜、および治癒過程初期の歯根膜より、レーザーキャプチャーマイクロダイセクション法にて組織採取を行う。さらに、マイクロアレイ解析にて、治癒過程初期の歯根膜において発現が高い因子を選別する。 次に、選別された因子のスクリーニングのために、ラット歯周組織傷害モデルを用いて、傷害された歯周組織における治癒過程初期の歯根膜において、候補因子とDecorinにおける共発現の有無を、免疫蛍光染色にて解析し、Decorinと共発現する因子を選別する。さらに、組織再生に重要な細胞の分化能、増殖能、および遊走能を確認するために、PDLSCを培養し、歯根膜細胞関連因子の発現解析、細胞増殖能解析、細胞遊走能解析を行う。そして、培養後のPDLSCにおいて、歯根膜細胞関連因子の発現、増殖能、および遊走能が最も高い候補因子を、因子Xとして絞り込む。 絞り込んだ因子Xに関して、ラット歯周組織欠損モデルを用いて、歯周組織欠損部位に、a.コラーゲンゲル、Decorin、および因子Xを移植する群、b.コラーゲンゲルおよびDecorinを移植する群、c.コラーゲンゲルおよび因子Xを移植する群、d.コラーゲンゲルを移植する群を設定し、その歯周組織再生能を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今後、レーザーキャプチャーマイクロダイセクションを行い、その後にマイクロアレイ解析も行う予定としており、次年度における使用額が多くなることが予想される。また、現在の研究内容をまとめて、英語論文の作成も検討しており、論文投稿の予算確保も必要となるため、次年度使用額が生じた。 また、in vivo実験も行っていく予定としており、そのための施設使用費および材料費なども初年度と比較してかかってくることも予想されるため、次年度への繰り越しを決定した。
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