本研究はSARS-CoV-2の感染において歯周病がリスク因子となるかを分子生物学的探索により明らかにしようとするものである。 申請者は電子顕微鏡観察においてヒト舌上皮細胞に、SARS-CoV-2のウイルス粒子の発現を確認し報告した(Acta Histochem Cytochem. 2023Apr 25;56(2):29-37.)。また、COVID-19患者の歯肉内縁上皮において、免疫組織化学的にSARS-CoV-2感染に必要な生体側のレセプターであるangiotensin converting enzyme2(ACE2)やⅡ型膜貫通型セリンプロテアーゼである(TMRPSS2)やS蛋白の開裂に必要なFurinの発現増加を認めている(Int J Mol Sci . 2020 Aug 20;21(17):6000. )。一方、COVID-19では様々なサイトカインが病態の進展に関与しており、歯周炎の病態とCOVID-19で共通するサイトカインが認められる。そこで、ヒト歯肉上皮培養細胞を用いてサイトカインを添加することでSARS-CoV-2感染関連因子が変動するか検討した。 サイトカイン添加によりヒト歯肉上皮培養細胞は、ACE2およびTMPRSS2で明らかな増加が認められた。過去の疫学報告おいてCOVID-19の重症化に歯周炎がリスク因子であることが示されているので、感染局所でのサイトカインの産生増加による環境変化が上皮細胞の感染リスクを増加させ重症化に関与するかもしれない。
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