研究課題/領域番号 |
21K17019
|
研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
高 昇将 新潟大学, 医歯学総合病院, 助教 (00846082)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 炭化ケイ素繊維 / 繊維強化型レジン / 歯科用高分子材料 / 高分子複合材料 / 加速劣化試験 |
研究実績の概要 |
歯科用高分子材料が最も効率よく強化される、炭化ケイ素(以下SiC)繊維の長繊維と短繊維の混合比率について検討した。長繊維:短繊維=2:1で混合し、歯科用高分子材料の強化に用いた場合、長繊維のみで強化した場合と同程度の曲げ強さおよび弾性係数が得られたことから、長繊維と短繊維の適切な混合比率は2:1であることが示唆された。 また、臨床応用を目指すには口腔内で長期にわたり安定して機能する必要がある。このため、ソックスレー抽出器を用いて沸騰水中に試験片を0,1,7,14,28日浸漬し、浸漬後の3点曲げ強さおよび曲げ弾性係数を計測し、得られた値の変化から試作SiC繊維強化型レジンの長期耐久性について評価した。試験片はそれぞれベースレジンのみ、シランカップリング処理していないSiC繊維を含有する試作SiC繊維強化型レジン、シランカップリング処理済みのSiC繊維を含有する試作SiC繊維強化型レジンの3種類のレジンを用いて、JIS T 6517:2011に準拠した形状とし、作製した。シランカップリング処理はベースレジンとSiC繊維間で化学的接着を得るために行った。結果は、ベースレジンのみの試験片群では日数が経過するに従い、徐々に3点曲げ強さ、曲げ弾性係数ともに増加した。また、シランカップリング処理無しのSiC繊維を含有する試験片群では1日経過後に3点曲げ強さが増加した後一定に、曲げ弾性係数は7日経過時点で最大となった。シランカップリング処理済みのSiC繊維を含有する試験片群では28日経過するまでそれぞれの値の変化は認められず、他の試験片群と比較して最も大きい値を示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度に実施予定だったSiC繊維の長繊維と短繊維の混合割当についての検討は、2021年度時点で得られた結果を基に条件を追加して実施した。その結果、2021年度時点で得られた混合比率である、長繊維:短繊維=2:1が最も効率よく基材の歯科用高分子材料を強化できた。この混合比率に基づき、2023年度には実際の3ユニットブリッジの形態を模した試験片を作製し、適切な繊維の配置を決定予定である。 また、SiC繊維強化型レジンの長期耐久性評価については4℃および55℃の水中に試験片を30秒ずつ浸漬するサーマルサイクル試験により実施予定だったが、試作試験装置が故障してしまったため、ソックスレー抽出器を用いた加速劣化試験に試験方法を変更して実施した。加速劣化試験では100℃水中に試験片を浸漬し、浸漬後0,1,7,14,28日が経過した時点で3点曲げ試験を行い、3点曲げ強さおよび曲げ弾性係数を計測し、その変化によりベースである歯科用高分子材料および試作SiC繊維強化型レジンの耐久性を評価した。試験片形状および加速劣化試験後の曲げ試験条件は予定していた通りJIS T 6517:2011とした。本研究に用いた歯科用高分子材料単体では加速劣化試験による3点曲げ強さおよび曲げ弾性係数の低下は認められず、試作SiC繊維強化型レジンでも同様の結果が得られた。加速劣化試験の結果より、試作SiC繊維強化型レジンは口腔内での使用に耐えうる長期耐久性を持っていることが示唆された。 以上より、当初予定していたSiC繊維の長繊維と短繊維の混合割合の決定および長期耐久性の評価が完了しているため研究は概ね順調に進行している。
|
今後の研究の推進方策 |
試作SiC繊維強化型レジンの臨床応用のため、SiC繊維の長繊維と短繊維の配置の検討と、SiC繊維の色の遮蔽に用いる予定のオペークレジンの適切な厚さの検討を予定している。 SiC繊維の長繊維と短繊維の配置の検討には下顎第二小臼歯および下顎第二大臼歯の2本を支台歯として、ポンティック部を下顎第一大臼歯1本とした3ユニットブリッジの形態を模した試験片を供する。この試験片を作製するために専用の型枠を準備する予定であるが、金型を用いると試作SiC繊維強化型レジンの硬化に必要な光が届かなくなる可能性が高い。このため、加熱により試作SiC繊維強化型レジンを硬化させるか、型枠を透明な素材で作製し、光が届くようにする予定である。長繊維と短繊維の配置を変更した試験片を数種類作製し、3点曲げ試験に供し、それらの3点曲げ強さ、曲げ弾性係数を計測し、比較することで適切な繊維の配置を決定する。 SiC繊維の色の遮蔽に用いるオペークレジンの厚みの検討については、実験に供するため、現在市販されているオペークレジン2種と、オペークレジン程では無いものの、歯の詰め物として用いられているコンポジットレジンの中で色の遮蔽能力に優れるもの(オペークカラー)1種の計3種を調達した。オペークレジンは色調遮蔽能力に優れるが、白色であるためその上に歯の色のコンポジットレジンを築盛する必要がある。一方、オペークカラーのコンポジットレジンは一定の色調遮蔽能力と歯の色を両立したコンポジットレジンであるため、単体での使用が可能である。この3種の色調遮蔽能力を分光測色計にて比較し、オペークカラーのコンポジットレジンの使用の可否および色調遮蔽に必要な厚みについて検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
国際歯科材料会議が現地開催とweb開催のハイブリッド開催となり、新型コロナウイルス感染症の状況を鑑みてweb参加としたため、こちらにかかる経費が未使用となっている。また、論文投稿経費に関しても未使用分があるが、英語論文として投稿予定で現在日本語での執筆を完了した段階であり、英文校正、投稿費として次年度使用予定である。
|