本研究では,ラットの上顎から第一臼歯を抜歯し,同時にインプラントを埋入する(抜歯即時埋入)実験を行った.その結果,即時埋入におけるインプラント周囲骨は通常の埋入と比較して,骨形成量,期間ともに遜色ないことがマイクロCTによる三次元的構造解析と組織切片の染色による定量解析で明らかとなった.一方周囲骨中のコラーゲン線維は,埋入時にドリルで切削された部位で変性していることが確認され,待時埋入ではインプラント周囲の全周にわたり認められたのに対し,即時埋入では抜歯窩を含むためコラーゲン変性領域が少ないことが分かった. 更にインプラント埋入にPTH製剤の間歇的投与を組み合わせる実験を実施した.投与はラットの皮下に注射する方法に加え,口腔内軟組織への注射による方法も実施した.口腔内への注射は一般的な歯科治療で使用される局所麻酔と同様の手技であるため,インプラント治療時に併用できる簡便な方法として期待される.その結果,マイクロCTによる三次元的構造解析ではPTH製剤の口腔内投与が骨量を増加させることが分かった.更に組織切片の解析からPTHの投与は骨細胞数,骨芽細胞数の増加を惹起することが示された.特異抗体を用いた免疫染色の結果,PTH製剤投与は骨芽細胞を抑制するスクレロスチンの産生を減少させることも明らかとなった.PTH製剤投与方法を比較すると,口腔内への注射による方法が皮下注射による投与と比較してインプラント周囲における一連の骨形成促進効果が高いという結論も得られた. 本研究結果より,需要が拡大するデンタルインプラント治療をより確実かつ簡便に成功させるための基礎科学的な裏付けと,PTH製剤を応用した新たな治療法開発への基盤が構築された.より詳細なインプラント周囲骨組織の動態を解明する必要があり,今後は遺伝子レベルの骨形成解析をマウスを使用して実施予定である.
|