研究実績の概要 |
歯牙への栄養供給を行う歯髄組織に存在する歯髄幹細胞は、再生医療への応用可能性が示唆されているが、臨床応用へは未だ進んでいない。一方、歯根膜の喪失を主体とした歯周炎では、エムドゲインなどの歯周組織再生療法が臨床応用されているが、その適応症は中等度歯周炎までに限定されており、抜歯適応となる重度歯周炎に対しての有効な治療法は未だ無い。歯髄と歯根膜は線維芽細胞を主体とした複数の細胞集合体であり、それぞれ幹細胞も存在するなど共通点もあるが、マラッセ上皮細胞の有無などによる機能遺伝子の違いもある。その違いを改良し、歯髄を歯根膜様組織へ誘導できれば新たな歯周組織再生療法として応用可能になると考える。本研究では、歯髄でOFFになっている歯根膜機能遺伝子の発現誘導を行い、歯髄誘導型人工的歯根膜を作製することを目的とする。 今年度は、歯髄と歯根膜の機能遺伝子の違いを解析するために、歯髄培養細胞と歯根膜培養細胞からtotal RNAを抽出後、次世代シーケンサーによるRNA発現網羅的解析を行った。その結果、昨年度の定量的RT-PCR法で確認した、歯髄―歯根膜誘導群で発現上昇した歯根膜機能遺伝子PERIOSTINおよびS100 calcium-binding protein A4 (S100A4)、neural cell adhesion molecule 1 (NCAM1)について、歯髄サンプルに比べ歯根膜サンプルでの発現上昇傾向を認めた。さらに、歯根膜サンプルでは歯髄サンプルに比べ発現の上昇した上位20位遺伝子にKERATIN14, 16が該当した。KERATIN 14, 16は歯髄には存在しないが歯根膜に存在するマラッセ上皮遺残の発現遺伝子であることから、Keratin 14, 16は歯髄を歯根膜に誘導するための重要な遺伝子である可能性が示唆された。
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