研究課題
顎関節を構成する下顎頭軟骨は咬合力等の機械的負荷に対する緩衝材としての役割を持つ。しかしながら、加齢に伴い保水性、粘弾性をもつ細胞外基質プロテオグリカンの産生が減少し関節軟骨の緩衝能が劣化することが示唆されている。申請者らはこれまでプライマリーシリア(以下シリア)が下顎頭軟骨の恒常性維持過程において細胞外基質の産生に必要であることを明らかにしている。本研究は、細胞外基質の産生減少を伴う下顎頭軟骨の老齢変化とシリアが関連しているとの仮説のもと、老齢マウスを用いて顎関節の加齢変化とシリアの関連、さらには加齢に伴うシリアの変化はどのように制御されるのかを明らかにした。昨年度までに、老齢マウスではシリア発現率が減少すること、ならびにラパマイシン標的タンパク質(mTOR)シグナリングの標的であるS6リボソームタンパク質のリン酸化が抑制されることが明らかとなった。さらに、野生型マウスに生後4週齢よりRapamycinを腹腔投与したところ、顎関節軟骨細胞においてシリアの発現が有意に減少しただけでなく、投与後11週後にはプロテオグリカンの産生減少がすることを明らかにした。これらの結果から、本年度はシリア発現率がmTORシグナリングによって制御されているとの仮説のもと、mTORシグナリングの活性化剤であるMHY1485がシリア発現率へ及ぼす影響を解析した。マウス前駆軟骨細胞株ATDC5にMHY1485を投与すると、対照群と比較し顕著にシリア発現率の上昇が認められた。以上より、軟骨細胞においてシリアの発現率はmTORシグナリングにより制御されていることが明らかとなった。さらに一連の結果より軟骨組織の加齢変化にはmTORにより発現がコントロールされるシリアの存在が関連していることが明らかとなった。
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