本研究ではマウスc57BL/6Jを用いて咀嚼によるインスリン分泌における迷走神経の関係について検討を行った。2年の研究期間で1. 健常マウスにおける迷走神経を介した咀嚼動態の相違が糖代謝に与える影響2. 糖尿病モデルマウスにおける迷走神経を介した咀嚼動態の相違が糖代謝系に与える影響を行った。 健常マウスにおいてニューロペプチドY濃度、インスリン濃度、PEPCK濃度、膵ベータ細胞面積で有意な差を認めたが(Mann-WhitneyのU検定、p<0.05)、レプチン濃度において有意な差を認めなかった。糖尿病モデルマウスにおいて同様の実験を行ったところレプチン濃度、インスリン濃度で有意な差を認めた(Mann-WhitneyのU検定、p<0.05)が、アディポネクチン濃度、ニューロペプチドY、膵ベータ細胞面積において有意な差を認めなかった。 糖尿病モデルマウスにおいて血清中のレプチン濃度と体脂肪率の間に有意な相関を認めること、肥満患者はレプチン分泌量が増加しているがレプチン抵抗性によりレプチンが機能していないことが報告されていること、マウスを高脂肪食で3ヶ月間飼育するとレプチン抵抗性が発症することが報告されている。レプチン濃度において、非咀嚼群が咀嚼群よりも高い値を示していることから、糖尿病において、咀嚼することにより脂肪細胞が減少する可能性が示唆された。またアディポネクチン濃度において、本研究では糖尿病モデルマウスで咀嚼が影響を与えなかったと考えられる。健常マウスにおいて咀嚼がアディポネクチン分泌に影響を与えたことを報告した。アディポネクチンは内臓脂肪の蓄積により血中濃度が低下することが報告されている。糖尿病モデルマウスでは既に脂肪組織が蓄積しており、咀嚼では有意な差を与えなかったと考えられる。
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