研究課題
本研究は咽喉頭の長期的酸暴露に伴う嚥下誘発変調の機序を解明することを目的とした.胃酸の主成分である塩酸は温度感受性イオンチャネルTRPV1を活性化するが,TRPV1はサブスタンスP(SP)の放出を誘導し,NK1受容体の活性化をもたらすことで血管透過性を亢進して浮腫の誘発に関連することが報告されている.前年度はNK1ブロッカー投与によりTRPV1誘発性の咽喉頭浮腫形成が抑制されると仮説を立てたが,同様の現象は確認できなかった.令和4年度は実験手法の妥当性について検証すべく,過去の報告を参考に下肢浮腫モデル動物を作成した.実験には7週齢のSD系雄性ラットを用いた.浮腫について評価するため,NK1ブロッカーを前投与後,浮腫誘発物質マスタードオイル(MO)を下肢に塗布し,エバンスブルー(EB)の溶出量を対象群と比較した.下肢EB溶出量はMO塗布により増加,NK1ブロッカー前投与により減少し,NK1ブロッカーによる浮腫抑制効果が示された.続いて,咽喉頭の持続酸刺激に伴って生じる浮腫と機械刺激誘発嚥下の変調との関連について検証を行った.NK1ブロッカーを前投与後,咽喉頭に60分間のカプサイシン持続刺激およびそれに続くエアフロー機械刺激を行い,誘発嚥下回数および咽喉頭EB溶出量を対象群と比較した.前年度はTRPV1刺激後にEBを投与していたが,刺激前に投与するよう変更した.喉頭EB溶出量は両群共に前年度よりも増加し,NK1ブロッカー投与により減少した.よって,EB投与手順の変更により血管透過性について高い感度で評価できた.一方で機械刺激誘発嚥下はNK1ブロッカーの影響を受けなかったが,NK1ブロッカー単独では十分に喉頭浮腫を抑制できない可能性があると考える.血管透過性亢進因子はSP以外にもCGRP等が存在し,その感受性には組織特異性があることが知られる.今後は他の物質についても検証する.
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Dysphagia
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10.1007/s00455-022-10522-5.