研究課題/領域番号 |
21K17070
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
畠山 航 岩手医科大学, 歯学部, 研究員 (20733728)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ヒアルロン酸 / ゼラチン / ハイドロキシアパタイト / BMP / 骨補填材料 |
研究実績の概要 |
ヒアルロン酸は優れた保水性と創傷治癒効果を有し、歯科領域における骨補填材への応用が期待できる。本研究では、自家調製した架橋ヒアルロン酸(埋入試料)および既存の架橋型チオール修飾ヒアルロン酸(注入試料)を用いて、骨形成因子を含有した複合生体材料の最適な調製法と調製条件を探索した。調製試料の有効性は、動物実験および理工学的評価によって検証した。 埋入試料では、2官能性エポキシ架橋剤を用いてヒアルロン酸とアルカリゼラチンを架橋した。両架橋体は混合後に凍結乾燥し、円盤状のスポンジ体とした。注入試料では、ヒアルロン酸架橋キット(Hysetem)を通法に従って混和し、架橋型ゾル試料とした。ナノハイドロキシアパタイト(nHAp)はBMP溶液中で複合化し、これをスポンジ体に含浸あるいは架橋型ゾル試料と混和し、BMP(+)試料とした。対照としてBMP無配合のBMP(-)試料を同様に調製した。 各調製段階の試料において種々の理工学的評価を行い、ヒアルロン酸架橋による熱的安定性および酵素分解耐性の向上、nHApによるタンパク吸着およびタンパク徐放性の向上が確認された。 動物実験は、埋入試料ではΦ6mmの頭蓋骨欠損ラットを用いて、BMP(+)群・BMP(-)群・欠損のみ群(各群n=6)の比較をした。注入型試料では、ゾル試料充填リングをラット頭蓋骨上に埋入し、BMP(+)群・sham群(各群n=5)で比較した。8週後に頭蓋骨を採取し、放射線・組織学的に評価した。軟エックス線および組織標本を用いた計測の結果、埋入・注入の両試料において、BMP(+)群は対照群と比べて有意に大きい骨形成を示した。 本研究の結果から、ヒアルロン酸・アルカリゼラチン・nHAp・BMP複合生体材料は、短期間に骨組織の再生を促すことが明らかとなり、新規骨補填材料としての有用性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験計画書に記載の項目のうち大部分の研究が達成されている。 注入試料においては、凍結乾燥・成形を必要としないことから、基材としての調製が簡便で、骨形成因子・DDS材料複合体との混和も非常に容易であった。また、この注入試料に加え、昨年度までに調製を行った埋入試料に関して、理工学的評価(TG/DSC熱分析・ヒアルロニダーゼ溶解試験・タンパク溶出試験・タンパク吸着試験・SEM観察)を行い、ヒアルロン酸を架橋することによる熱的安定性の向上および酵素分解時間の延長、nHApとタンパクの吸着、nHAp複合化による調製試料のタンパク徐放能の向上を観察・計測し、今回企画した生体材料が具備すべき各種性質が付与されていることを確認した。 動物実験については、統計解析に足るサンプル数を確保するため、埋入試料を用いた実験を継続的に行い、一方で、注入試料を用いた動物実験を新規に行った。経過観察期間を経て採取した頭蓋骨サンプルについて、放射線学的評価および組織学的評価を行い、埋入試料については、初期の欠損範囲から内側に向けた骨の伸長率を算出した。注入試料については、埋入リング内の骨領域について垂直方向の長さを計測した。両試料において統計解析を行った結果、それぞれBMP(+)群で対照群よりも有意に優れた骨形成を認めた。 これら結果は、前年度までの研究成果と併せて2編の英論文としてまとめ、それぞれオープンアクセスジャーナルにアクセプトされ、現在までに公表に至っている。
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今後の研究の推進方策 |
現状の自己架橋した埋入試料は、ラット生体内において8週時点で既に消失しているのに対し、頭蓋部の骨欠損部は完全には封鎖しておらず、更なる骨再生の余地を残している。骨誘導能を持続させるためには、埋入した生体材料の生体内残存期間を8週から16週程度にまで延長する必要があると考えられ、ヒアルロン酸およびアルカリゼラチンの架橋方法・架橋条件について再考する必要がある。具体的な手法としては、ヒアルロン酸およびアルカリゼラチンの架橋剤の濃度変更や架橋時間の延長が挙げられる。 一方の注入試料においては、注射のみで完結する低侵襲な骨増生法について検討することで、本研究の更なる発展が見込める。注射による方法は低侵襲かつ簡便であり生体への負担が小さいため、材料の反復注入が容易で、必要とされる骨量まで骨誘導能の持続が可能であると考えられる。 また、両試料に共通する事項として、nHApの配合量の増加を検討する。本研究におけるnHApの配合は、主としてDDS材料としての役割を想定しており、nHApが本来持つ骨伝導能はほとんど発揮されていないと考える。nHApの配合量の増加によって、生体材料の生体内吸収時間の延長や、骨伝導能の付与が期待できる。また、スタチン系薬剤などの骨形成因子を担持させ、さらなる骨誘導能の付与を行うことも検討する。BMPは臨床応用に向けた承認を得ることが難しい上に、価格が非常に高価である。一方、スタチン系薬剤は臨床の場において日常的に使用されており、価格も廉価であるため、歯科臨床への応用がより期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究で得たサンプルの分析外部委託費用として前倒し請求を行ったが、当初の予定額よりも安価であったため残額が生じた。また新型コロナウイルス感染拡大により、学会旅費がほとんどなかったことも関連がある。残額は次年度の研究充実のための物品、および再開された学会旅費へ充当予定である。
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