研究課題/領域番号 |
21K17092
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
丸瀬 靖之 九州大学, 歯学研究院, 助教 (90784504)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 口腔扁平上皮癌 |
研究実績の概要 |
本研究はOSCCにおいてPD-L1/PD-1シグナルを介した増殖・浸潤・転移の分子機構を解明するための基盤となる研究を行うことを目的とした。これまでOSCC生検組織の免疫組織化学的染色法を用い、OSCCにおいてPD-L1/PD-1シグナルが免疫抑制を引き起こし、OSCCの浸潤・転移に関与すること及びOSCC組織でのPD-L1/PD-1 発現が生存率を低下させていることを明らかにしてきた。また、PD-L1過剰発現株(SAS)にrecombinant human PD-1 (rhPD-1) を作用させ、PD-1からPD-L1へのシグナル伝達は OSCC の増殖を促進すること、同様にOSCCの遊走能・浸潤能を亢進することに関しても明らかにしてきた。そこで、本年度においては、SAS細胞にrhPD-1を作用させた際に変動する遺伝子の発現を、DNAマイクロアレイを用いて、OSCCの増殖・浸潤・転移における標的遺伝子の特定を行なった。その結果、SASと比較して、SAS+PD-1において、腫瘍細胞の生存、遊走、分化などの機能を制御する中心的役割を担うActivaor Protein-1(AP-1) familyのうち、FosBの発現上昇(Zscore:7.618, Ratio:10.44)を認めた。また、同様にTNF Signaling pathwayにおいて、AP-1より下流の遺伝子群の発現上昇が認められた。また、細胞外基質を分解し、腫瘍の浸潤・転移に寄与すると考えられるマトリックスメタロプロテアーゼのうち、MMP-3及びMMP-10に関しても同様に発現上昇を認めた。これらのことより、PD-1はOSCCに発現しているPD-L1に作用することにより、OSCC細胞中のTNF Pathwayを活性化してOSCCの遊走及び浸潤を亢進することでOSCCの悪性化に寄与している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では、標的遺伝子及びタンパク質の発現定量、およびこれらの発現抑制・過剰発現による機能解析までを本年度で終了する予定であった。しかしながら、現状では遺伝子発現プロファイリングまでしか終了していない。 これは研究代表者の研究施設からの異動、及び研究協力者との連携不足が遅延理由と考えられる。 今後はより密な連携を図り、研究を継続していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降、マイクロアレイによって得られた結果より、標的遺伝子発現について qPCR およびリアルタイムPCR を用いた定量を行う。また、標的タンパクについてウェスタンブロット法にて発現を検索し、免疫細胞化学的染色法にて in vitro における局在を確認する。 また、SAS 細胞と rhPD-1 を用いて、下記の様に標的遺伝子の発現制御を行い、機能解析を行う予定である。 1)si RNA を用いた活性阻害による機能解析;SAS 細胞に rhPD-1 を作用させたのち、si RNA を用いて標的遺伝子の活性を阻害し、遺伝子の発現量の変化や表現型および増殖、遊走、浸潤能への影響を検討する。 2)過剰発現による機能解析;プラスミドベクターを用いて、SAS 細胞に標的遺伝子を過剰発現させ、遺伝子の発現量の変化や表現型および増殖、遊走、浸潤能への影響を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在、リコンビナントPD-1を使用した実験までしか行えておらず、中和抗体購入費で差額が生じた。次年度以降で中和抗体を使用した実験を行う際に使用する予定である。
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