OSCC における診断および治療に有用なバイオマーカーは未だ確立されていない。バイオマーカー確立のためには、癌治療における予後を大きく左右する浸潤・転移の分子機構を解明することが重要である。われわれは、以前より、免疫チェックポイント分子 PD-L1/PD-1 に着目して、研究を行ってきた。その結果、PD-L1/PD-1 シグナルは免疫抑制を引き起こし、OSCC の浸潤・転移に関与すること明らかにした。また、OSCC 細胞株を用いた実験結果より、PD-L1 高発現株で rhPD-1 の添加により細胞増殖が促進されること、および遊走能・浸潤能が亢進されることを明らかにし、その効果は抗 PD-L1 抗体の添加により減弱することも明らかにした。 以上のことから、OSCC の腫瘍微小環境において、PD-L1 から PD-1 への抑制シグナルにより細胞傷害性 T 細胞の免疫応答を抑制していることのみならず、PD-1から PD-L1 へのシグナル伝達により、細胞増殖、遊走・浸潤能を亢進している可能性が示唆された。 本研究期間において、PD-1/PD-L1 シグナル経路とは作用点の違う,T cell immunoglobulin mucin 3(Tim-3)/galectin-9(Gal-9)シグナル経路に着目した。腫瘍に発現する Gal-9 と,様々な免疫細胞に発現する Tim-3 が結合し,免疫応答を抑制すると報告されている。OSCC と Tim-3/Gal-9 シグナル経路との関連の詳細は不明であったが、本研究でOSCCではGal-9 陽性例は,遠隔転移の頻度が高く,生存率は低かった。また、OSCC において,Tim-3/Gal-9 陽性例は遠隔転移の頻度が高く,生存率は低くなることが示唆された。 Tim-3/Gal-9 の共発現は,遠隔転移の独立した危険因子であることを見出した。
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