研究課題/領域番号 |
21K17121
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
飯島 洋介 埼玉医科大学, 医学部, 講師 (10867196)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 末梢神経障害 / 抗がん剤誘発性 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、抗がん剤有害事象の一つである末梢神経障害を緩和する物質を探索し、その作用機序を解明することである。抗がん剤誘発性末梢神経障害の発生は、抗がん剤の種類、投与量によって決まるが詳細は不明な点が多い。 本年度は、抗がん剤有害事象の評価を腫瘍選択性で客観視するために、ヒト口腔内環境を構築する種々の正常細胞と口腔扁平上皮がん、さらには神経様細胞の抗がん剤に対する細胞傷害活性を測定した。分子標的治療薬、殺細胞性抗がん剤で入手可能であった20種類の抗がん剤の中では、プロテアソーム阻害剤であるボルテゾミブが神経様細胞をもっとも強く傷害することがわかった。また、ボルテゾミブは、口腔扁平上皮がん細胞株にも細胞傷害作用を強く発揮した。これは、ボルテゾミブの有害事象として末梢神経障害が多いこと、あらゆるタイプのがん細胞株に細胞傷害性を示すとする報告と一致している。次に、ボルテゾミブを添加した神経様細胞、口腔がん細胞の細胞周期解析をフローサイトメーターで行った。細胞傷害性を発揮する抗がん剤ではその種類によって効果を発揮する細胞周期が異なるが、ボルテゾミブは、細胞にアポトーシスを誘導することで抗腫瘍効果を発揮することがわかった。現在、抗がん剤とのコンビネーション実験で抗酸化剤のアスコルビン酸ナトリウム、N-アセチルシステインがボルテゾミブの神経毒性を減弱することがわかってきたため詳細を検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験に使用する抗がん剤は、作用機序が異なるものを使用する必要があったが、ほぼ網羅することができた。抗がん剤誘発性末梢神経障害の報告が多い、白金製剤、微小管阻害剤、タキサン系抗がん剤、プロテアソーム阻害剤は、多種類使用し相違点を検討中である。薬剤を組み合わせるコンビネーション実験では、抗がん剤の作用相乗効果を認める薬剤は確認できていないが、神経毒性を緩和する薬剤が人体に無害の抗酸化剤から確認できたことは、大きな進歩である。初年度に予定していた各種抗がん剤の腫瘍選択性の評価は、順調に進展した。 しかし、抗がん剤誘発性の口腔粘膜炎を評価するためのケラチノサイトの初代培養実験が予想以上に難しく培養液の組成を再検討することに時間がかかっている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、神経毒性の緩和が確認できた抗酸化剤を中心にプロテアソーム阻害剤以外にこの効果が確認できる抗がん剤を探索し、効果があるものはフローサイトメーターで細胞周期解析を行う予定である。細胞周期解析は培養細胞、細胞成長因子を大量に消費することから抗がん剤の試適濃度(50%細胞生存濃度)を予備実験で規定してから行っていく予定である。 抗酸化剤が抗がん剤の抗腫瘍効果へ影響を与えるかコンビネーション実験を行い、安全性が担保されるようであれば抗がん剤末梢神経障害モデルマウスでの動物実験を開始する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
発表予定であった学会が新型コロナの影響で中止になり経費がかからなかった。翌年度は、測定機材の購入費がかからないため消耗品を購入しつつ、昨年できなかった学会発表を行う予定である。
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