研究課題/領域番号 |
21K17154
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
小野 岳人 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 助教 (40772471)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 歯科矯正学 / 骨代謝学 |
研究実績の概要 |
矯正学的歯の移動においては、歯根周囲の歯槽骨で骨リモデリングが起こる。移動する先の歯槽骨表面では破骨細胞による骨吸収が誘導される。歯根膜は歯根と歯槽骨の間に存在する線維性結合組織であり、歯の移動に際して何らかの機能を発揮すると考えられてきたが、歯の移動における歯根膜の機能には不明な点が多い。本研究は、矯正学的歯の移動における歯根膜の機能を解明することを目的とした。 前年度に確立した歯根膜注射法を用いて、力学刺激応答性チャネルの阻害剤注射を行ったところ、歯の移動の抑制を示唆する予備データが得られた。そこで、歯根膜の伸展培養系に対してこの阻害剤を添加することにより、力学刺激が歯根膜細胞を刺激するメカニズムを解明することを計画し、予備実験に着手した。 力学刺激が歯根膜細胞におよぼす影響を俯瞰するために、公共データベースの再解析を行った。その結果、細胞外基質合成など力学刺激関連の遺伝子発現の変動とともに、IL-6ファミリーの発現上昇が認められた。矯正学的歯の移動モデルマウスの歯根膜の解析結果も同様であった。そこで、本年度は研究計画を拡張し、力学刺激が免疫系を介して歯の移動を制御する可能性も検討した。歯根膜注射法を用いてIL-6シグナルを阻害したところ、矯正学的歯の移動が有意に抑制された。免疫系は疼痛の発生にも関与することから、IL-6シグナルが矯正学的歯の移動に伴う疼痛に関与するかを検証した。行動学的解析および三叉神経節の解析から、歯の移動に際してIL-6シグナルは疼痛を惹起することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
矯正学的歯の移動における歯根膜の機能を解明することを目的に、前年度に確立した実験手法を用いて矯正学的歯の移動のメカニズムの解析を行ってきた。研究開始当初は、力学刺激が歯根膜や歯槽骨に伝わりその刺激が直接歯槽骨リモデリングを制御するという、純然たるメカノバイオロジーの研究を計画していた。研究計画に従い、本年度は力学刺激応答性チャネルの関与を示唆するデータが得られた。前年度までに得られたデータとの矛盾しておらず、今後の研究にも支障はないと考えられる。 本年度は、特定の免疫学的プロセスが矯正学的歯の移動に関与することを示唆するデータが得られたことから、免疫学的解析も行った。その結果、IL-6シグナルを介した矯正学的歯の移動およびそれに伴う疼痛発生の制御機構を明らかにすることができた。免疫学的解析は当初の研究計画になかったものであり、研究プロジェクトは当初の計画以上に大きく進展したといえる。IL-6シグナルの関与を証明したこと単独でも一つの研究成果と捉えることができるが、メカノバイオロジーと免疫学的プロセスを繋ぐメカニズムの解明という次の研究ステップが示されたことも大きな進捗であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、当初の研究計画に従い、矯正学的歯の移動モデルマウスの解析、歯槽骨リモデリングの分子メカニズムの解析を柱として矯正学的歯の移動における歯根膜の機能の解明に取り組む。 まずは、当初の予定に従い薬剤や遺伝学的手法により歯根膜を除去したマウス、力学刺激応答性チャネルの阻害剤を投与したマウスに矯正学的歯の移動を施し、歯の移動とそれに伴う歯周組織の変化を解析する。これにより、矯正学的歯の移動における歯根膜の意義を示す。その変化の細胞メカニズム・分子メカニズムについて培養細胞を用いた解析を行う。 本年度の研究成果として得られたIL-6シグナルによる矯正学的歯の移動および疼痛制御について、産生細胞や標的細胞など未解明のメカニズムの検討を行う。さらに、IL-6シグナルの駆動に力学刺激がどのように関わるかを解析する。力学刺激応答性チャネルの阻害剤投与による歯の移動の抑制が認められたことから、このマウスの歯根膜におけるIL-6シグナルを解析する。また、培養歯根膜細胞の伸展培養系に対して力学刺激応答性チャネルの阻害剤を添加し、IL-6シグナルの変動を解析する。これにより、矯正学的歯の移動におけるメカノバイオロジーと免疫学的プロセスの接点の解明を試みる。 以上により、矯正学的歯の移動における歯根膜の機能を解明する。それを通じて、歯根膜を標的とした新しい矯正治療法の基盤を確立することを目指す。
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