研究課題/領域番号 |
21K17163
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
廣藤 雄太 九州大学, 歯学研究院, 助教 (80759746)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | MeCP2 / Rett症候群 / ドーパミン作動性ニューロン / BDNF |
研究実績の概要 |
Rett症候群(RTT)は、主にMeCP2を原因遺伝子とする小児神経発達障害である。本研究では、RTT患児から得た乳歯歯髄由来幹細胞(SHED)から分化させたMeCP2欠損ドーパミン作動性ニューロン(DN)を神経発達障害の細胞モデルとして病理学的機序を明らかにする。 X染色体を2本持つRTTの女性患者には、MeCP2遺伝子のX染色体不活化によりMeCP2欠損細胞と正常なMeCP2発現細胞が混在する。RTT女児由来SHEDを用いる研究では、これらを分離する必要がある。申請者が所属する研究室では、これまで限界希釈法を用いて両細胞を分離し保存している。しかし、コントロールとなり得るMeCP2発現SHEDは、増殖能が低下しており実験に使用できなかった。そのために、新規に両細胞を分離し直した。これを複数回試みたが、増殖良好なMeCP2発現SHEDは得られなかった。一方、MeCP2欠損SHEDは問題なく分離できた。現時点では、その理由は明らかとなっていない。そこで、MeCP2発現SHEDとして、研究室で保存されているSHEDの中から、3名の健常女児由来SHEDを用いる方針に変更し、主に以下の実験を行った。 1. MeCP2欠損DNの神経突起発達の欠陥に対する脳由来神経栄養因子(BDNF)の効果の解析 2. MeCP2欠損SHEDから分化したDNの遺伝子発現変化を網羅的に調べるためのRNA-Seq解析 その結果、BDNFはMeCP2欠損DNの神経突起発達は改善する効果を示すことがわかった。さらに、MeCP2欠損DNでは、BDNFのmRNAの発現は亢進しているにもかかわらず、細胞外BDNFタンパク質レベルは低下していた。したがって、MeCP2欠損DNではBDNFの自己分泌の欠陥が示唆された。現在、この欠陥に関与する遺伝子の同定を試みている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
同一のRTT患児に由来するMeCP2発現SHEDは、MeCP2欠損SHEDと同一の遺伝背景を持つため、コントロール細胞として優れている。2021年度は、両細胞の分離培養に多くの時間を要した。そして、健常児由来SHEDをコントロールとして用いる方針に変更したため、多くの実験を再度やり直し、データの再現性を確認する必要が生じた。同一患児由来のコントロール細胞を使用した予備データと、異なる健常児由来のコントロール細胞を使用した新しい結果との整合性を注意深く検討するための時間も必要であった。ただし、2021年度において、上記の通り研究の概要で示したいくつかの新しい知見を確認することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、MeCP2欠損DNの欠陥として示唆されるBDNFの自己分泌の欠陥の分子機序をさらに解析する予定である。また、BDNFの効果機序についても、ミトコンドリア機能の改善を含め、詳細に解析する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
現在までの進捗状況にも記した通り、2021年度は、MeCP2発現SHEDとMeCP2欠損SHEDの分離培養に多くの時間を要し、結果として健常児由来SHEDをコントロールとして用いる方針に変更したため、多くの実験を再度やり直しデータの再現性を確認する必要が生じた。また同一患児由来のコントロール細胞を使用した予備データと、異なる健常児由来のコントロール細胞を使用した新しい結果との整合性を注意深く検討するための時間も必要であったため、本年度行う予定であった解析を新しい知見の検討と同時に次年度行っていく予定である。
|