Rett症候群(RTT)は、主にMeCP2を原因遺伝子とする小児神経発達障害である。本研究では、RTT患児から得た乳歯歯髄由来幹細胞(SHED)から分化させたMeCP2欠損ドーパミン作動性ニューロン(DN)を神経発達障害の細胞モデルとして活用し、その病理学的機序について明らかにすることを目的とする。 そこで3名の健常女児由来のMeCP2発現SHEDと患児由来のMeCP2欠損SHEDを用いて、2021年度は主に MeCP2欠損DNの神経突起発達の障害に対する脳由来神経栄養因子(BDNF)の効果の解析と、MeCP2欠損SHEDから分化したDNの遺伝子発現変化を網羅的に調べるためのRNA-Seq解析を行った。 実験の結果、BDNFはMeCP2欠損DNの神経突起発達不全を改善する効果を示すことがわかった。さらに、MeCP2欠損DNではBDNFのmRNAの発現が亢進しているにもかかわらず、細胞外BDNFタンパク質レベルは低下していた。したがって、MeCP2欠損DNではBDNFの細胞外分泌が障害されている可能性が示唆された。 そこで2022年度は、MeCP2欠損DNで見られたBDNFの細胞外分泌障害に関与する遺伝子の同定を行うため、RNA-Seq解析の結果を踏まえ、神経伝達物質の細胞外分泌を行う際に必要なタンパク質の遺伝子発現について解析を行ったところ、いくつかの遺伝子の発現に異常があることがわかった。以上の結果から、DNにおいてMeCP2は直接あるいは間接的に神経伝達物質の細胞外分泌関連因子の発現を調節しており、MeCP2が欠損するとBDNFの神経外分泌が阻害され、細胞外BDNFタンパク質レベルが低下し、神経突起発達不全を引き起こす可能性が示唆された。現在、より詳細なメカニズムについて解析中である。
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