咬合異常は顎顔面頭蓋の形態異常による不正と個々の歯の位置異常が相乗して生じる。その原因を遺伝的要因、環境的要因のように表現はするものの、明瞭に区別することができるものは少ない。一方、ゲノム科学の進展により顎顔面形態を特徴づける根幹のゲノム情報が少しずつ明らかになってきた。しかし、サンプルサイズに起因した再現性、あるいは表面形状のみによる形態解析という点に課題がある。本研究は、詳細な形態解析を可能とするセファロ(側面・正面)と歯・顎顔面用コーンビームCT画像を有する対象者数について多因子形質の遺伝的原因を解明する有力な手法である「網羅的ゲノム解析」を用いて新規の、あるいは機能が明らかにされていない遺伝因子の同定を試みている。 その一つの表現型として、切歯管を観察することができた。日本人、韓国人、エジプト人の異なる人種のコーンビームCT(CBCT)を用いてICとMCIの近接性を分析し、顎顔面形態の差異や、国籍や年齢、性別について検討した。患者のCBCT画像を使用して、MCIとICとの距離、左右のMCI間の距離、及びICの幅径を測定した。さらに、前後的顎態をANB角に基づいて3群:Class I、Class II、Class IIIに分類し、垂直的顎態を下顎下縁平面角により3群:Hypodivergent、Normodivergent、Hyperdivergentに分類した。MCIとICに関する計測値を従属変数とし、前後的、垂直的顎態、国籍、年齢、性別を独立変数とする重回帰分析を実施した。Skeletal Class IIIおよびHyperdivergentでは、MCIとICの距離が統計的に有意に短かった。日本人は韓国人やエジプト人と比較し、左右のMCI間の距離が有意に短かった。また、年齢が上がるにつれてICの幅径が有意に増加することが示された。
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