本研究では、実験的歯の移動モデルに対してロキソプロフェンとアセトアミノフェンがどのようなメカニズムにおいて影響を与えるかの比較を組織学的に解明するため、以下の研究を行った。 ラット右側上顎切歯-第一臼歯間にクローズドコイルを装着し、切歯を固定源として第一臼歯を10gの力で近心移動させた。なお、実験群(ロキソプロフェン投与群およびアセトアミノフェン投与群)に対して、対照群(抗炎症剤非投与群)とした。そして、歯の移動開始から30日後の歯の移動量および歯根吸収量の差について検討を行なった。また、上顎骨を摘出し作製した組織切片を用いて、H-E染色と酒石酸耐性酸性ホスファターゼ(TRAP) 染色を行い、歯根に出現する破歯細胞数について解析を行った。そして、炎症性サイトカイン(IL-1β、TNF-α)および破骨細胞分化因子(RANKL、M-CSF)の発現について免疫組織化学染色を用いて評価を行なった。 その結果、抗炎症剤非投与群の根尖部には歯髄から歯根膜に接する部位において破歯細胞の出現と顕著な吸収窩が認められたのに対し、実験群では破歯細胞はほとんど認められず、歯根吸収もわずかであった。また、抗炎症薬非投与群、実験群それぞれにおいて、歯槽骨圧迫側には破骨細胞の出現が認められ、歯槽骨の改造が進んでいる様子がうかがわれた。また、根尖部における歯根吸収量を計測した結果、抗炎症剤非投与群において最も大きい吸収量を示し、実験群間では歯根吸収量に差は認められなかったが、抗炎症剤非投与群と比較すると有意に小さい値を示した。そして、歯の移動距離に関しては、3群間で有意な差は認められなかった。 炎症性サイトカインおよび破骨細胞分化因子については、抗炎症剤非投与群では歯根中央部および歯冠部の歯髄組織をのぞく根尖部周囲に各々の発現が認められたの対し、実験群では各々の発現が根尖部周囲にはほとんど認められなかった。
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