研究課題
歯周病原菌が歯周組織の細胞に障害を及ぼす要因として,菌の膜成分であるリポ多糖(LPS)および菌が感染した免疫担当細胞に由来するサイトカインが広く知られている。一方で,歯周病原菌自体の移行がないにも関わらず,菌固有の因子が遠隔臓器に到達し,障害性を示すなど,これまでの理論では説明できない現象も数多く報告されている。私は,歯周病原菌が『細胞外分泌小胞』を恒常的に分泌し,生体側の細胞に様々な影響を及ぼすことを見出した。この分泌物は,細菌の外膜に由来する小胞で,内部には菌固有の病原因子を豊富に含んでいると考えられた。本研究では,小胞内部に含まれる細胞障害性因子の同定と,小胞が作用した歯周組織の細胞の形態や機能について解析を行った。具体的には,1.病原性の異なる歯周病原菌由来の『細胞外分泌小胞』の内容物を同定し,歯周病原菌のタイプ・活動性に相関する因子について解析を行った。2.歯周病原菌由来の『細胞外分泌小胞』がマクロファージ,骨関連細胞,上皮細胞・線維芽細胞,がん細胞,血管内皮細胞に与える影響を解析した。歯周病原菌由来の『細胞外分泌小胞』には,ジンジパインなどの多数の菌固有のタンパク質分解酵素が含まれていた。その含有量は菌の活性化に関連すると考えられる(解析中)。歯周病原菌由来の『細胞外分泌小胞』はマクロファージ,骨芽細胞,上皮細胞・線維芽細胞,がん細胞,血管内皮細胞など様々な細胞内に取り込まれて,細胞に濃度依存的に障害性を示すことが示唆された。以上の結果,小胞に含有される因子の変化は,歯周病原菌の種類や活動性,細胞障害を判定する指標となり得る可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本研究は,2年をかけて以下の3つの点について研究を進める計画であった。1.病原性の異なる歯周病原菌由来の細胞外分泌小胞の内容物を同定し,歯周病原菌のタイプ・活動性に相関する因子について解析を行う。2.歯周病原菌由来の細胞外分泌小胞がマクロファージ,骨関連細胞,上皮細胞・線維芽細胞,がん細胞,血管内皮細胞に与える影響を解析する。3.細胞外分泌小胞の作用による細胞表面の糖鎖構造の変化を調べ,細胞障害と関連する糖鎖修飾変化を解析する。このうち,1.2については,実験のかなりの部分を遂行することができ,すでに論文投稿の準備をしている。
計画に沿った研究活動が概ね行えており,今後も滞りなく実験を進める。現在は,歯周病原菌由来の『細胞外分泌小胞』に含まれる菌固有のタンパク質分解酵素の含有量と菌の活性化の関連を解析している。今後は,歯周病原菌由来の『細胞外分泌小胞』による歯周組織の細胞の機能に与える影響をさらに調べ,歯周病原菌と口腔環境の病的変化を関連づける新たな分子メカニズムを解明したい。
当該年度に予定していた調査・資料収集のため参加予定であった学会への参加を見送ったりため残額が生じたが,次年度に調査および成果報告を行うため,当該費用に支出する予定である。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Japanese Dental Science Review
巻: 57 ページ: 138-146