研究実績の概要 |
歯周病原菌の種類や数的変化は宿主の細胞の分化や機能に大きな影響を及ぼす。歯周病原菌が放出する『細胞外分泌小胞』が口腔や肺の上皮細胞におけるバリア機構を破壊し,細胞死を誘導する(He et al., Arch Oral Biol, 2020)。この『細胞外分泌小胞』には歯周病原菌固有の強力な病原因子が含まれており,唾液や血液を介して様々な歯周組織の細胞にも作用する。よって,『細胞外分泌小胞』の内容物や細胞障害性は,口腔の衛生状態・病的変化に大きく関与すると考えられるが,その詳細は明らかでなかった。そこで,本研究の目的は,歯周病原菌が放出する『細胞外分泌小胞』が口腔内の正常細胞やがん細胞の分化や機能に与える影響を調べ,口腔環境の病的変化を反映する分子指標の探索につなげることであった。具体的には,以下のことを行った。 1.『細胞外分泌小胞』に含まれる細胞障害性因子の同定 2.歯周病原菌由来の『細胞外分泌小胞』が歯周組織の細胞に与える影響を調べる。 『細胞外分泌小胞』内には菌固有のタンパク質分解酵素であるジンジパインなどが豊富に含まれていた。『細胞外分泌小胞』を骨芽細胞や口腔扁平上皮癌細胞,線維芽細胞に作用させたところ,濃度依存的に細胞障害を誘導した。以上の結果は,歯周病原菌は,『細胞外分泌小胞』を介して様々な歯周組織細胞に障害を与えることを示している。今後はその詳細な分子メカニズムについて解析する予定である。
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