研究実績の概要 |
日本医療データセンターの大規模診療報酬請求データベースを用いて、口腔・咽頭がん治療の医療費と術後合併症を調査した。2005年4月から2020年12月までに口腔・咽頭がんと診断された患者21,736人のうち、がんの疑い病名のみ、データベースに登録開始から6か月未満、治療歴のない患者を除外し2,186人を解析対象者とした。 解析対象者の部位は咽頭がんが最も多く、セツキシマブ投与群では50.7%、セツキシマブ非投与群では37.8%であった。初回診断時のリンパ節転移については、セツキシマブ投与群の35.1%、セツキシマブ非投与群の22.0%に認められ、治療内容は、セツキシマブ投与群に対して手術が29.8%、化学療法が58.0%、放射線療法が30.7%であったのに対して、セツキシマブ非投与群ではそれぞれ、58.6%、34.7%、28.3%であった。セツキシマブを投与するか否かについては、がんの部位、重症度、治療内容が影響することが考えられたため、傾向スコア法を用いて、両群の背景を調整した。 セツキシマブ投与群、非投与群からそれぞれ195人を選択し、医療費と合併症について比較を行った。セツキシマブの投与時に認められる特有の合併症である低マグネシウム血症や尋常性ざ瘡が、セツキシマブ非投与群に比べて有意に多かった。また、セツキシマブ投与群では、がん関連痛、口腔粘膜炎、経口摂取困難と診断される患者がセツキシマブ非投与群に比べて有意に多かった。口腔・咽頭がんに対する薬剤費の他、合併症に対する治療も含め一連のがん治療に関する医療費について比較すると、セツキシマブ投与群の月平均医療費は525,551円だったのに対し、セツキシマブ非投与群は285,239円とその差は約240,000円で、性、年齢、部位別に比較しても、唾液腺以外のがんにおいてはセツキシマブ投与群の医療費は高額であることが示された。
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