申請者はこれまで、腎糸球体が通常は発現しない自然免疫受容体TLRを糖尿病環境で発現し、歯周病原物質P.gingivalis LPS (TLR2/4リガンド)が糖尿病マウスに腎症を起こすこと、腸内細菌性TLR4リガンドの阻害剤がP.gingivalis LPSによる糖尿病マウスの腎症合併に予防効果を示すことを報告した。 そこで本研究は、歯周病原菌由来TLR2/4リガンドが糖尿病環境で腎症合併の独立危険因子となるのみならずsodium-glucose cotransporter 2 (SGLT2) 過剰発現を誘発して糖尿病増悪因子となる可能性を解明する目的で行われた。 その結果、SGLT2の発現は、通常、近位尿細管の内腔壁のみ弱く免疫染色される程度であり、P.gingivalis LPS 誘発性糖尿病性腎症マウスでは、近位・遠位尿細管と尿細管間質、および糸球体で観察され、その発現レベルは組織リアルタイム PCR および細胞ELISAによる分析でP.gingivalis LPS投与非糖尿病マウス腎、または P.gingivalis LPS 未投与糖尿病マウス腎より有意に強かった。一方、P.gingivalis LPS 投与非糖尿病マウス腎と P.gingivalis LPS 未投与糖尿病マウス腎の間に有意差はなく、腎SGLT2の異常発現はLPS単独では誘導されなかったことから、P. gingivalis が腎尿細管におけるSGLT2の発現を促進させることで糖尿病増悪因子となる可能性が見出された。以上より、歯周疾患の起因菌成分由来血中TLR2/4リガンドは、糖尿病性腎症の独立危険因子であるばかりでなく糖尿病の増悪因子となることが示唆された。
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