研究課題/領域番号 |
21K17224
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
大石 裕子 群馬大学, 医学部附属病院, 助教 (90846924)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | DAMA / 自主退院 |
研究実績の概要 |
医療者の助言に反して入院を中断、退院(DAMA: discharge against medical advice)し、重症化した状態で再受診、再入院に至るケースがあり、死亡率や合併症の上昇、医療費の増加につながるとともに、医療現場の混乱を招くため、世界的に問題視されている。これまで日本における DAMA に関する調査は行われていないため、本研究では、群馬県における DAMA の発生頻度や発生要因を調査することで、日本における DAMA の現状を調査し、医療的、社会的な課題かを明らかにすることを目的とし、臨床研究を開始した。 まず、DAMAに至った症例の発生要因を分析するため、患者背景、病名、検査・治療内容、入院までの受診回数、入院日数、再診・再入院率、DAMA後の転帰や治療経過を観察項目とする質問紙票の作成をした。また、質問紙票を配布する協力依頼機関として、専従あるいは専任の医療安全管理者を設置している群馬県内の医 療機関を抽出した。 本研究について、医師主導臨床研究計画書を作成し、群馬大学医学部附属病院の臨床研究審査委員会に申請した。令和3年7月29日に承認を取得した。 これまで、抽出した協力依頼機関の中で、約半数の医療機関に研究協力を依頼した。協力を得られた各医療機関において、臨床研究開始の手続きを経て、調査を 実施した。今年度前半までに、残る半数の医療機関へ調査協力を依頼し、DAMAの実態調査を完了する予定である。 その後、調査結果の分析・評価を行い、最終的には論文化、学会発表を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度に質問紙票の作成に着手した。DAMAに至った症例の現状を把握し、発生要因を分析するため、患者背景、病名、入院までの通院状況、入院における検査・治療内容、入院日数、DAMA発生までの医療者の対応、DAMA後の転帰や再診・再入院の有無などを観察項目とする半構造化質問紙票を作成した。続いて、質問紙票を配布する研究協力依頼機関として、専従あるいは専任の医療安全管理者を設置している、精神科病院を除く群馬県内の医療機関44施設を抽出した。その後、群馬大学医学部附属病院の臨床研究審査委員会に医師主導臨床研究の申請をし、令和3年7月29日に承認を取得した。 令和3年8月から令和4年9月にかけて、抽出した研究協力依頼機関の約半数にあたる、20医療機関に研究協力を依頼した。このうち8施設から協力可能との返答を得たが、協力不可と回答した医療機関の多くは、DAMAに至った患者の把握が困難であるというのが理由であった。協力可能とされた各医療機関には、研究計画書や患者向けの説明文書などの各種書類と、質問紙票を配布した。各医療機関で、情報提供に関する届出申請、研究情報の公開、研究対象者のオプトアウトの機会の保証など、各種手続きが適切に行われていることを研究責任医師が確認した後、医療安全部門の担当者に診療録調査、質問紙票への回答を依頼した。 令和4年11月時点で8施設全てからは回答済みの質問紙票を回収し、予定していた実態調査を完了した。 現在、回答を集計し分析を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
実態調査の回答結果を集計し、群馬県におけるDAMAの発生頻度やその要因の分析を行う。ただ、一部の医療機関からDAMAに 至った患者について病院として把握できていないとの連絡を受けており、DAMAの発生頻度を調査することは難しいと予想される。しかし、DAMAに至った症例の一部となってしまうが、DAMAに至った背景や要因は調査可能と考えられ、その分析を行うことで、医療的、社会的、医療経済的な問題点を明らかにする。そして、 個人レベル(患者教育、医療者に対するコミュニケーション教育)、対人レベル(患者の家族、友人との協働)、地域・コミュニティレベル(病院の方針・体制、地域の支援体制)での対策を検討する。本研究で得られた結果は、今年度学会発表を行い、論文化に取り組む。 本研究は群馬県におけるDAMAの現状分析を後ろ向き観察研究で行っているが、将来的には全国調査を行い、海外におけるDAMAの研究結果と比較することで、日本の医療制度や医療環境のもとでのDAMAの傾向分析を行いたい。そして、社会・政策レベル(DAMA発生予防に対する国レベルでの政策や診療報酬上の加算、DAMA発生時の医療機関・福祉施設・自治体等の連携構築など)での対策に提案につなげていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は調査協力の依頼や調査内容の説明のために県内医療機関へ出張し、対面で依頼・説明を行う予定であったが、コロナ禍のため、各医療機関との連絡は書面の郵送あるいはメールで行うことが多く、調査旅費を使用する機会が少なかった。また、海外学会や国内学会への参加も、新型コロナウィルス感染が蔓延している状況では難しく、学会参加のための旅費も使用することがなかった。よって、パソコン周辺機器、統計ソフトや質的研究支援ソフト、文具や調査用封筒等、質問紙票の郵送・返送のための切手代などの使用に留まった。 次年度はパソコンや国内学会への参加の旅費、また論文作成にあたっての英文校正や論文投稿、論文掲載料として使用する予定である。可能であれば海外学会へ参加し、そのための旅費としての使用も予定している。
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