研究課題/領域番号 |
21K17250
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
松山 亮太 広島大学, 医系科学研究科(保), 助教 (00780008)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 感染症流行制御 / 学校休業 / 費用対効果 / 意思決定支援 |
研究実績の概要 |
感染症流行時の学校における臨時休業(学校休業)は、学生の感染予防に資するために利益が大きいと考えられがちであるが、家庭の経済損失や教育機会の損失といった負の側面を持ち合わせる。したがって、学校休業の費用対効果を最大化する必要があるが、そのための定量的基準は未だない。そこで本研究は、「社会にとってどのような形の学校休業が望ましいか」を定量的に明らかにすることを目的として、感染症数理モデルによる流行動態の推定と、保護者の休業実態などの社会学的データを利用し、学校休業に伴う健康・経済・教育の損失と便益とを最適化するためのシミュレータを開発する。今年度は中国地方A市にある4校の高校における生徒の欠席日と学級閉鎖のデータを使用し、インフルエンザ感染に対する学級閉鎖による感染制御の効果について推定を実施した。その推定結果を利用することにより、高校におけるインフルエンザ感染のシミュレーションを可能にするためのプログラムを構築できた。これにより、「どのような休業をどれ程の期間実施する」と「感染者数の最終規模がどれ程になるか」を試算するための基盤を構築した。今後は高校のみならず、中学・小学校および幼稚園・保育園など対象となる学校種別を増やすことで解析内容の拡充を図る。また、学校閉鎖が経済および教育に与える影響を明らかにするため、質問紙票を用いたデータ収集と分析を行い、学校休業が経済・教育に与える影響の定量化を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当研究では、学校環境における感染症の流行動態の分析と、保護者の休業実態や医療費に関する社会調査データの分析とを実施することにより、学校休業が健康・経済・教育に与える影響を定量化し、学校休業に関わる意思決定を支援するためのシミュレータの開発を実現する。そのために、①感染症の流行動態を支配するパラメータの推定、②学校休業による感染症流行抑制への効果を推定するシミュレータの開発、③学校の休業措置による教育・経済効果の推定を実施する。今年度は上記3項目のうち、①と②に着手した。①については、学校環境でデータの取得がしやすいインフルエンザを対象に、学校における等感染症の流行動態に影響を与えるパラメータを推定した。パラメータ推定には中国地方A市に存在する4つの高校における学校休業(学級閉鎖)および生徒の欠席データを使用した。インフルエンザの伝播性は、(i)クラス内、(ii) 学年内、(iii) 学年間、(iv)地域コミュニティから学生の4タイプを設定し、学生の集団構造や特性に合わせた推定を実施した。地域からの感染について市の疫学サーベイランスデータを利用した。②については、流行開始後t日における感染確率をモデル化し、二項過程等に基づく確率論的感染モデルを構築した。A市の高校の一般的な集団構造(40人クラスが1学年に3つある場合)を設定し、感染イベントを確率的に発生させるシミュレーションを可能にするよう、プログラムを構築した。これにより、「どのような休業をどれ程の期間実施する」と「感染者数の最終規模がどれ程になるか」が試算可能になった。一方、今年度は③に関する社会調査を実施できず、学校閉鎖が経済および教育に与える影響を評価できなかった。今後、健康・経済・教育に与える影響のすべての定量化とコスト関数の構築の実現を目指し、学校での感染症流行データ以外のデータ取得にも着手する。
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今後の研究の推進方策 |
学校環境における感染症の流行動態と学校休業の効果については、高校という限られた環境ではあるが一定の知見を得た。今後は高校のみならず、中学・小学校および幼稚園・保育園など対象となる学校種別を増やすことで解析内容の拡充を図る。すでに小学校における感染症流行・欠席データの利用を一部の教育委員会に打診済みであり、来年度に解析を実施する予定である。一方、今年度は保護者の休業実態や医療費に関する社会調査データの取得を実施していない。今年度にデータ収集を実施しなかった理由は、新型コロナウイルスの流行に伴い、地域によって予防行動の勧奨や蔓延防止策等といった政策介入の効果が異なるために、データ取得に適していないと考えられたためである。今後、これらのデータ収集を実施して分析を行う予定である。また、分析されたデータを利用して、学校休業の費用対効果の関係性を表現する関数(コスト関数)の実装をおこなうことで、学校休業が経済・教育に与える影響を定量化するためのシミュレータを開発し、シミュレーションで得られる複数の実験結果を比較可能にする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
学校休業にともなう保護者の休業実態や医療費に関する社会調査データの取得を実施していないため、その調査費用(約140万円)が次年度使用額として計上されている。今年度にデータ収集を実施しなかった理由は、調査を計画していた時期(2022年1月-3月)に新型コロナウイルスの大規模な流行が生じ、地域によって予防行動の勧奨や蔓延防止策等といった政策介入の効果が異なることが想定され、一般化されるようなデータの取得に適していないと考えられたためである。我が国では学校休業は冬季に生じることが多いため、学校休業の影響についての社会調査を実施するに当たり、回答者の思い出しバイアスを回避するための望ましい調査時期は2-3月である。次年度の同時期(2023年2月-3月)に、インターネットを介した質問紙票調査を実施することでデータを収集し、次年度の予算と合わせ分析を行う予定である。
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