研究課題
本申請研究では、脂肪酸の種類に着目し、脂肪酸代謝が障害されているモデル動物を利用し脂肪酸の毒性を評価することに特徴がある。今回申請者が目指しているモデルは、飼料中の脂質組成を変えることによる生体影響を評価する長期の毒性評価モデルの開発であり、独創的な点である。予備的検討として、脂肪酸代謝異常マウス (juvenile visceral steatosis : JVS マウス, 遺伝的にカルニチンが低下) に対し、脂質主成分がリノール酸である大豆油を4%含有しているAIN-93に、1)リノール酸(シス型、多価不飽和脂肪酸)、2)オレイン酸(シス型、一価不飽和脂肪酸)、3)ステアリン酸 (飽和脂肪酸)、4)エライジン酸(トランス型、一価不飽和脂肪酸)の各脂肪酸を重量比1%分の糖質と置き換える形で添加した飼料を6週間投与する実験を行い、小腸・大腸の組織学的スコアリング及び便中alkaline phosphatase (ALP) 測定での腸炎の評価を行った。ステアリン酸含有飼料群及びエライジン酸含有飼料群でのマウスの死亡に伴い統計的処理はできなかったが、ステアリン酸群では小腸・結腸ともに組織学的評価で他の群よりも組織学的スコアが高く、便中ALPも高い傾向にあった。同じく予備的検討として、野生型マウスに対し通常飼料であるCE2或いはステアリン酸 (飽和脂肪酸) を重量比1%分の糖質と置き換える形で添加した飼料を、またJVSマウスにCE2を、各群8週間投与したが、いずれの群でも小腸・結腸ともに組織学的に腸炎を来たしていなかった。今回の結果から、特に飽和脂肪酸であるステアリン酸含有食事摂取でのJVSマウスで腸炎が認められ、脂肪酸の種類によって毒性が異なることが示唆された。今年度の結果を通じ、今回の実験系は個体レベルでの種々の長鎖脂肪酸の毒性を評価するモデルになりうる可能性が考えられた。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、以下の2点を目的としている。i. カルニチン欠乏モデルマウスにおける脂肪酸毒性を、脂肪酸ごとに評価する。ii. カルニチン欠乏モデルマウスにおける腸炎の評価を行うことで、カルニチン欠乏に伴う遊離脂肪酸の、腸管に対する影響を確認する。カルニチン欠乏モデルマウス(JVSマウス)において、腸管に対する影響は未だ検討されていないため、脂肪酸の種類を変えること、特に、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸が腸管を初めとした臓器にどのような影響を与えるかを検証したく、食事中の脂肪酸の種類を変えることで、まずは脂肪酸の質による毒性の影響を評価することとした。その結果、統計的な確認には至っていないが、飽和脂肪酸であるステアリン酸添加群では小腸・結腸ともに組織学的評価で他の群よりも組織学的スコアが高く、便中ALPも高い傾向にあり、飽和脂肪酸により小腸炎・結腸炎が誘発されている可能性があると考えられる。今後は、個体数を増やして再度各種脂肪酸 (特にリノール酸、オレイン酸、ステアリン酸) 添加飼料投与による腸管・その他臓器 (心臓・肝臓等) での上記に対する影響を、統計学的処理を踏まえて確認する予定としている。
今後は、個体数を増やして、各群 (疾患マウス群、野生型マウス (対照) 群) に、4週齢から、再度各種脂肪酸 (特にリノール酸、オレイン酸、ステアリン酸) 添加飼料給餌を行う。経時的に観察し、摂食量、体重、便潜血検査を行う。10週齢にて、麻酔下にて心臓採血を行い、臓器(腸管、肝臓、心臓、脳、脂肪組織、血管)を採取し、脂肪酸添加による腸管・その他臓器での上記に対する影響を、統計学的処理を踏まえて確認する予定としている。特に厚生労働省が定めた飽和脂肪酸の目標量は、摂取エネルギー比率で7%以下と設定されていることから、今回、飽和脂肪酸がエネルギー比率7%以下となるように、各種脂肪酸 (リノール酸、オレイン酸、ステアリン酸)を重量比2%ずつ、糖質と置き換える形で添加し、脂肪酸の質による毒性の影響を評価することとしている。
動物実験施設の移設に伴い動物飼育数の縮小を余儀なくされたため、前年度の動物飼育数を縮小せざるを得なくなり、前年度の飼育費が縮小した結果、次年度使用額が生じた。今年度に、主に動物飼育費に充てる予定である。
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PLOS ONE
巻: 17 ページ: e0265903
10.1371/journal.pone.0265903.
Clinical and Translational Gastroenterology
巻: 12 ページ: e00331
10.14309/ctg.0000000000000331.