研究実績の概要 |
【目的】食生活の変化・偏りによる必須微量元素「亜鉛」の欠乏が指摘されている。我々はこれまで亜鉛欠乏が胸腺・脾臓・末梢血中の免疫細胞に与える影響を解明してきた。本研究では、近年のトレンドである腸管免疫に着目し、腸管バリアーである分泌IgA(sIgA)の低下と、これに伴うバクテリアトランスロケーション(腸内細菌が腸管上皮透過し、体内に移行)の誘発について検討した。 【方法】雄SDラットに標準食(0.01%亜鉛含有)または亜鉛無添加食を毎日17gずつ6週間与えた(各群N=7)。モデル作製後に小腸を摘出し、小腸粘液中のsIgA濃度をELISA法で測定した。FACS解析と免疫組織化学染色を用いて、小腸粘膜固有層内のB細胞数(CD3-; B220+)、形質細胞数(CD138)、2型ヘルパーT (Th2) 細胞数(GATA-3, IL-4, IL-5)を計測した。さらに、バクテリアトランスロケーションの指標として、門脈血と小腸組織中のリポポリサッカライド(LPS)をELISA法と免疫組織化学染色を用いて検出した。 【結果】亜鉛欠乏ラットでは、小腸重量の低下と絨毛の萎縮が認められ、小腸粘膜固有層内のTh2(GATA-3, IL-4, IL-5)細胞数、B細胞数、形質細胞数が有意に減少し、小腸粘液中のsIgA濃度が有意に低下した。また、門脈血のLPS濃度と小腸組織中のLPS陽性領域が有意に増加した。 【考察】亜鉛欠乏ラットの小腸では、絨毛の萎縮に伴いリンパ球数が減少した。B細胞と形質細胞のsIgAの産生には、Th2細胞から産生されるIL-4とIL-5の誘導が必要であるため、Th2細胞、B細胞、形質細胞数の減少に伴いsIgAの産生が低下した。、腸管バリアーが減弱したことで、腸内細菌は腸管上皮を透過し、門脈を介して他臓器に移行するトランスロケーションが生じていることが示唆された。
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