研究実績の概要 |
本研究では環境中広く存在する親電子性化学物質アクリルアミド(ACR)誘発性神経軸索変性のメカニズムに注目し、神経炎症及び炎症性サイトカインの役割を調査した。 炎症性サイトカインTNF-α遺伝子欠損マウスと野生型マウスでの実験結果により、ACR(0~25mg/kg)の4週間曝露後、野生型マウスでは体重と脳の重量の減少、神経行動学指標であるLanding Foot Splay(LFS)の増加、grip strengthの減少、脳皮質ノルアドレナリン神経(NE)軸索の長さの減少が検出された。野生型と比べ、TNF-KOマウスでは、LFSの増加は25mg/kg群で軽減し、NE軸索障害は12.5mg/kg群で軽減した。また、炎症遺伝子(TNF-α、IL-1β, IL-6, NF-κB, TGF-β)、酸化ストレス遺伝子(SOD1, CAT, NQO1, HO1, KEAP1, GSTM)の発現量はTNF-α遺伝子欠損の有無とACR曝露濃度依存的な変化を確認した。以上により、TNF-αの欠損がACR誘発性神経軸索変性を軽減したことが明らかになった。 炎症性サイトカインIL-1β遺伝子欠損マウスと野生型マウスでの実験結果により、野生型と比べ、IL-1β KOマウスにおけるACR(25mg/kg)曝露は、LFSの増加と皮質NE軸索の密度の減少が示唆された。野生型では、ACR(25mg/kg)曝露が皮質のGclc、Gpx1、Gpx4の遺伝子発現を有意に増加させたが、IL-1β KOマウスではそれらを減少させた。野生型マウスの小脳における総GSHとGSSGを有意に増加させたが、IL-1β KOマウスではGSSGが減少した。小脳のMDAレベルは、IL-1β KOマウスの方が高かった。この予期せぬ結果は、ACR誘発性神経毒性におけるIL-1βの保護的役割を新たに示した。 以上の結果から、環境中親電子性物質誘発性神経障害における炎症性サイトカインの新たな役割が示唆され、新たな防御戦略の確立に貢献することも示されている。
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