2021年のRSV感染症の流行期は、例年と比べて大きく異なった。RSV感染症の流行期には、ハイリスク児を対象にパリビズマブを用いた重症化予防が行われる。RSV感染症の流行要因を把握する意義は大きい。本研究では、大阪市内におけるRSV感染症の疫学的解析を行い、2021年のRSV感染症の流行要因を探った。また、RSVの経時的な遺伝子変異の蓄積を明らかにすることを目指した。 2012年から2021年の患者発生状況の分析、ならびに2021年に検出されたRSVの分子疫学的解析を行なった。結果、2021年における大阪市の患者報告数は、冬から春にかけて増加しており、患者年齢は従来よりも高い傾向にあった。また、RSVの遺伝子型は、近年の国内で優勢を示す型(RSV-A ON1、RSV-B BA9)と一致した。2020年は、新型コロナウイルス感染症の世界的大流行が発生し、その感染予防対策が乳幼児のRSV感染の減少にも効果的であったと考えられる。RSV感受性乳幼児の増加が、2021年春のRSV感染症流行の一因であった可能性がある。RSV感受性者の蓄積は、季節的流行を認める従来の遺伝子型のRSVが季節に関わりなく流行する原因になりうると考えられた。 また、2019年に検出されたRSVの分子疫学的解析を行い、2021年に検出されたRSVの分子疫学的解析結果と比較した。2019年に検出されたRSVの遺伝子型は、2021年に検出されたRSVの遺伝子型と同様であった。さらに、2021年と2019年に検出されたRSVの遺伝子およびアミノ酸について比較解析を進めていた。しかしながら、研究代表者の科研費応募資格喪失に伴う補助事業廃止により、本研究を中断することとなった。 本研究では、RSV感染症の流行要因の理解に繋がる知見を見出した。また、RSVの経時的な遺伝子変異の解析に必要な複数の遺伝子配列を得た。
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