2022年度は医療機関に配布予定の調査票の簡略化と解析手法の検討を実施した。従来の調査票では入院時に検出された病原体の他、入院時の症状・血液検査結果・血圧・呼吸数などの詳細な情報を収集予定であったが、回答に係る医療機関へ負担が大きいため、入院時の病原体と入院期間を回答するのみとすることで簡略化した。解析手法については、文献検索を行い公開されているプログラムおよびソフトウェアをデモデータを用いて実装検証などの環境整備をした他、アメリカ人類遺伝学会に参加し、未公開の最新の解析手法と結果の解釈について他の研究者とディスカッションを通じて情報交換を行った。 しかしながら、新型コロナウイルスの流行状況が絶えず予測不能であることから、医療機関での調査票調査を実施できなかった。また、本研究で調査対象としている三世代コホートに参加している児は、2022年6月ですべて6歳以上となった。法令上、医療機関におけるカルテの保管期間は5年であることを踏まえると、医療機関へ調査票調査の依頼は極めて難しい状況であった。 本研究では、重症感染症の表現型のクラスタリングおよびGWAS解析の実施を行う予定であり、他の研究に応用可能な手法の開発も重要な課題であった。デモデータとして肥満や不眠、うつ症状などの疾患の表現型を、深層学習を用いて均質なクラスターに分けたところ、少数の特徴的な遺伝子が各クラスターで検出されやすくなる傾向がみられた。これは、oligogenic modelと呼ばれる、少数の遺伝子が比較的強い影響を与えるサブタイプが含まれている可能性を示唆しており、ある疾患の患者を表現型的に似たクラスターに分け、遺伝的要因を探ることで、原因となる遺伝子を特定できる可能性がある。本研究で得られた解析手法は、病因的に異質なサブタイプの集合体のような疾患について、各サブタイプの特性に合わせた精密医療の開発につながることが期待できる。
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