法医学分野では、病死などの場合は心臓内軟凝血がみられ、急死では心臓内に流動血がみられることがよく知られている。また、救急医療分野では外傷・出血により血液凝固が正常に機能しない例が報告されている。これらは出血による組織低酸素状態により凝固系・線溶系の不均衡が起きることが要因とされている。組織低酸素は出血量だけではなく、動脈出血と静脈出血のような出血様式の違いが影響すると考えられる。本研究では動脈性出血と静脈性出血の違いと局所循環との関連を明らかにし、凝固線溶系への影響を検討することを目的とした。方法として動脈性出血モデルと静脈性出血モデルを作成し、それぞれの出血による組織循環障害の現れ方の違いを評価した。 1) 動脈出血モデルラット及び静脈出血モデルラットの作成:大腿動脈及び大腿静脈にカテーテルを挿入し、出血性ショックモデルラットを作成した。対照群はカテーテル挿入のみとし、出血操作は行わなかった。出血量は全身血液量の45%とした。まず、10分間で45%の出血を実施したところ、有意差は認められなかったものの、静脈出血モデルの方が死亡率が高い傾向にあった。続く実験では、30分間で45%の出血を実施し、60分間の経過観察を行った。動脈出血に比べ、静脈出血では有意に血圧の回復が遅延した。同実験の各サンプルを用い以下の測定を行った。 2) ミトコンドリア呼吸の測定:組織循環の評価のため、ラットの心臓・肝臓・腎臓からミトコンドリアを抽出し、酸素消費速度を測定した。対照群・動脈出血群に比べ、静脈出血群では肝臓ミトコンドリアの酸素消費速度が有意に低下した。心臓・腎臓では有意差は認められなかった。 3) 血液凝固系・線溶系の測定:プロトロンビン時間、活性化部分トロンボプラスチン時間、フィブリノーゲン濃度を測定した。いずれも有意差は認められなかった。線溶系については実験を継続している。
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