本研究の目的は、看護学生向けSBARツールを組み込んだ臨地実習での教育訓練プログラムを開発・実施し、卒後にわたる「報告・相談」技術への効果を縦断的調査により明らかにすることである。 SBARによる報告・連絡の教育訓練プログラムにて実践訓練を行ったA看護系大学4年生90名のうち、A大学附属7病院に就職した学生65名を対象群とした。同病院に就職したA大学以外を出身校とする新人看護職員228名を非対象群として両群を比較検討した。調査期間は2022年6月から2023年2月であり、入職の2か月後(第1回目)、6か月後(第2回目)、9か月後(3回目)のタイミングで自記式調査用紙により調査を行った。調査項目は報告・相談に関する躊躇の実態およびSBARスキルである。 入職後の躊躇の頻度「しばしばある」が、2か月後で対象群25名(40%)、非対象群103名(36%)で差を認めなかった。躊躇の理由別では「よく質問をしてくる相手」への躊躇の頻度が対象群と比べ非対象群が高頻度であった(p=0.016)。SBARの実施頻度は、2か月後および9か月後で、対象群のほうが非対象群よりも高い傾向を認めた。 A大学の臨地実習でSBAR実践訓練を受けた新人看護職員は、それ以外に比べて入職後にSBARによる報告・相談を実践する頻度が高い傾向にあった。臨地実習での実践体験が基盤となり、入職後のSBAR報告・相談の実践をあと押ししていたのではないかと思われる。しかし実際の報告・相談場面では、看護基礎教育における知識修得および実践経験に関わらず、すべての新人看護職員が同じように躊躇を感じている実態が明らかとなった。SBARを充分に修得していない段階では、報告・相談場面での躊躇の低減に寄与するに至らなかったと推測する。よって、今後はさらに看護基礎教育の一環としてSBARの訓練内容を精錬し実施するなど質の向上が必要と考える。
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