本研究では、中脳辺縁系ドパミン神経路を含めた神経機構に焦点を当て、慢性疼痛の心理的要因と痛覚閾値低下との関連性について調べ、慢性疼痛の病態における役割と治療標的としての可能性を明らかにする目的で研究を行った。 片側後肢の足関節を4週間固定し不動化したマウスは、von Freyフィラメントの刺激により固定側の足底に痛覚閾値低下を生じる。この足関節不動化マウスの足底に刺激を加えた際の側坐核ドパミン放出量をin vivoマイクロダイアリシス法により解析し、ドパミン神経活動を調べた。足底に痛みを感じる強さでvon Freyフィラメント刺激を行うと、足関節不動化マウスでは側坐核のドパミン放出量が低下した。さらに、ドパミンD2受容体拮抗薬を側坐核に灌流し、痛覚閾値を測定したところ、痛覚閾値低下が改善することを確認した。しかし、足関節不動化マウスの痛覚閾値低下を改善するために必要なドパミンD2受容体拮抗薬は、通常の治療に用いられる濃度と比較すると、はるかに高い濃度であった。そのため、慢性疼痛の特徴を考慮し、前処置として軽度ストレスを負荷した後、4週間の足関節不動化による痛覚閾値低下モデルマウスを作成した。その結果、薬物濃度を抑えた状態で痛覚閾値低下改善の効果が確認できた。このことにより、側坐核のドパミンD2受容体は、ストレス状態で感受性が変化し、そのことが足関節不動化によって誘発される痛覚閾値低下を助長している可能性があることが示唆された。これらの結果は、慢性疼痛の病態におけるドパミン神経系の機能変化とその病態メカニズムの解明の基盤となるものであると考えられる。
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