脳卒中後疼痛の発症および維持における詳細な分子機構は、未だに不明である。治療効果が高く、副作用の少ない治療薬を開発するためには、脳卒中後疼痛の発症および維持する新たな分子メカニズムを明らかにする必要がある。本研究では、脳卒中後疼痛の病態を維持するアストロサイト依存的機構の解明を目的とし、これまで実験を進めた結果、3つの成果を得た。一つ目は、視床出血7日後の感覚野において、GFAP/ACSA2陽性アストロサイトが増加すること、二つ目は、感覚野第2-4層における成体アストロサイトマーカー遺伝子の発現が出血直後一過性に減少し、その後増加することを明らかにした。GFAPは発達期においても発現することから、視床出血直後ではアストロサイトが未成熟状態を再獲得している可能性が考えられる。そして、三つ目は、疼痛発症後(視床出血7日以降)において、アストロサイトの活性化に関わるシグナルの阻害により、疼痛を緩和することである。本結果は、我々が以前報告した「疼痛発症後にミクログリアを除去しても、疼痛緩和を効果を示さなかった」結果と異なり、アストロサイトが脳卒中後疼痛の病態を直接維持する可能性を示唆している。今後は、脳卒中後疼痛の病態における特定の感覚野アストロサイトを同定し、それらアストロサイトを制御する分子機構を解析することで、脳卒中後疼痛の新規創薬ターゲットとなる画期的疼痛治療薬の開発につながることが期待される。
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