2023年度成果:筆者は、片麻痺者の書字時、安定した筆圧を得る方法を模索した。そこで、基礎研究として 健常者の手書き時の筆圧に視覚情報が関与するかを調べることとした。対象は28名の健常成人とした。実験課題は左から右と、右から左へ10cmの線を引くことだった。使用機器は眼球運動測定装置(SMI ETG)と、トレースコーダー(SYSNET)だった。筆者は、被験者の眼球運動のデータからペン先を見ることなくゴールに視線を移すSaccadeタイプとペン先を常に追いかけていたPursuitタイプに分類し、筆圧と単位時間当たりの筆圧変化量を解析した。その結果、単位時間筆圧変化量はSaccadeタイプは大きく変動し、Pursuit タイプが少なかった。これらのことから、線引き時の筆圧は視覚情報の影響を受けることが示唆された。 研究全体の成果:筆者らは、障害により文字をうまく書くことができない片麻痺患者が、簡単に手書きスキルを習得できる方法を模索した。そこで線や図形を彫り込んだ練習ボードと、同じ線や図形が描かれた練習用紙を用意し、健常成人でどちらの練習が非利き手での書字が上達するか、無作為比較試験を実施した。 62 人の参加者はボード練習群と用紙練習群の2群に分けられ、非利き手で線と形状をなぞる練習を 1 日 10 分間、2 週間続けた。文字の形は非利き手で書いた文字を、『よんでココ! パーソナルVer. 4』の読み取り数で評価した。筆圧はトレースコーダー、固視回数はSMI ETGを用いて測定した。結果、用紙練習群は、平均筆圧値が増加した。ボード練習群は、文字の形が良くなり、平均筆圧値および、単位時間当たりの筆圧の変化量も増加した。これらの結果は、ボードに刻まれた線や図形をなぞる練習が、非利き手の書字を上達させるのに有効であることを示唆している。
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