本研究では将来的な変形性股関節症や大腿骨寛骨臼インピンジメントの誘因にもなりうる股関節不安定症に対する効果的な運動療法を考案することを目的として実施している. 本年度は,筋活動に着目して検討を行った.従来,各筋の活動を表面筋電計によって計測し比較することによってその違いについて考察が行われていた.近年,複数の筋から取得された表面筋電データを対象に筋シナジー解析と呼ばれる計算手法が用いられ,これによって複数の筋が課題動作中にどのように活動しているかを視覚的に理解しやすくなる.我々は,健常若年者を対象に,片脚スクワット動作中の表面筋電データを取得し,筋シナジー解析を行うことによって動作中に膝関節が外反しようとするものとそうでないものの筋活動パターンにおける特徴を明らかにしようと試みた. 結果として,片脚スクワット動作中に膝関節が外反するものにおいては身体質量中心の運動と同期して増減する筋活動パターンの中で,下肢筋のうちでも外側広筋と大腿二頭筋の活動比が大きいことが明らかとなった.動作における膝関節外反の程度は,膝蓋大腿関節症を有するものに近似しており,無症候者であっても運動学的な変化と筋活動に何らかの関係があることが明らかとなった. このように,股関節不安定症を有するものが仮に無症候であっても動作の運動学的な特徴が変化することと筋活動パターンに違いが生じることに関係性を見出すことができるかもしれない.効果的な運動療法の考案においては,運動学的な特徴や筋活動パターンを修正することを主眼におくことが重要となる可能性がある.
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