研究課題/領域番号 |
21K17542
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研究機関 | 株式会社国際電気通信基礎技術研究所 |
研究代表者 |
灰谷 知純 株式会社国際電気通信基礎技術研究所, 脳情報通信総合研究所, 研究員 (90804500)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 吃音 / 脳 / 安静時機能的結合性 / 潜在変数モデル / 検定力 / シミュレーション / 認知行動療法 / マインドフルネス |
研究実績の概要 |
【MRIデータの前処理】 本年度はfMRIデータの処理方法等についての知見を深め、より適切な解析についての見通しを立てた。本研究では、安静時機能的結合データを扱う際、脳表面の座標系の1つであるConnectivity Informatics Technology Initiative (CIFTI) フォーマットを用いることとした。CIFTIフォーマットを用いるためには、fmriprep-ciftifyという解析パイプラインを用いる必要があり、その準備を行った。具体的には、T1強調画像、T2強調画像、安静時機能画像をBrain Imaging Data Structure (BIDS) と呼ばれる脳データの保存形態に則って整理した。 【統計解析手法の検討】 2022年にNature誌に出版されたMarek et al.の高いインパクトを持つ研究において、安静時機能的結合性から行動特性を予測する際にサンプルサイズが小さいと統計学的なエラーを犯す確率が高く、適切な予測を行うには数千人単位のデータが必要であることが示された。本研究における吃音群のサンプルサイズが100程度であることを考えると、この論文の知見は本研究の科学的合理性に直接的に関連するものであり、このような統計学的な問題を解決する必要が生じた。そこで、心理学分野で広く用いられている分析手法である潜在変数モデルに着目し、安静時機能的結合性データを想定したシミュレーションを行うとともに、Human Connectome Projectが公開している1,000人以上のデータに対して当該モデルを用いた分析を行った。潜在変数モデルの特性や利点について調べることは、上記の統計学的な課題を解決するための一助となる。 【介入法の検討】 前年度に引き続き、吃音のある成人に対する心理的介入の系統的レビューとメタ解析を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
上記の通り、高いインパクトを持つ研究において安静時機能的結合性から個人差を予測することの限界が示され、それに対する適切な対応方法を先に確立する必要が生じた。主要な解決策としては、吃音のある成人の脳画像データを数千人単位で収集することがあげられるが、これは研究リソースやコストを考えた場合に非現実的なものである。そこで、心理学分野で用いられている統計学的な分析手法(潜在変数モデル)を応用することで、上記の問題に可能な限り対応することを目指すこととした。 これまでの脳機能画像研究においては、サンプルサイズや検定力が不足していることが問題視されている。潜在変数モデルの応用が、上記の統計学的課題の解決の一助となることを示すことができれば、本研究成果は吃音の分野に限定されない広い波及効果を持つ可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
【MRIデータの処理】 MRIデータの前処理を進め、fmriprep-ciftifyによってCIFTIフォーマットで安静時機能的結合性のデータが扱えるようになることを目指す。その後、統制群と吃音群との間で群間差の検証を行う。 【統計的分析手法の検討】 Human Connectome Projectが公開しているデータに対して潜在変数モデルを用いた分析を行い、脳データからよりよく個人特性を予測することができるかを調べる。潜在変数モデルが適切に個人特性の予測に寄与することが示されれば、同様の方法を吃音群のデータにも適用する予定である。 【心理的介入法の検討】 複数人で介入研究についてのバイアスのリスク(推定された介入効果が真実の効果から逸脱している危険性の程度)の評価を行い、系統的レビューとメタ解析を完了させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は先述の理由により研究計画を変更し、研究成果の発表を学会等で行うことができなかった。また、MRIデータの解析法の教授等について謝金を支払うことを想定していたが、申請者の所属変更に伴い、解析法等を詳しく知ることができるようになった。このためこれらの金額を次年度での、主に論文の英文校閲費や投稿費等に支出する予定である。
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